研究課題/領域番号 |
06042019
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | がん調査 |
研究機関 | 埼玉県立がんセンター |
研究代表者 |
藤木 博太 埼玉県立がんセンター研究所, 副所長 (60124426)
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研究分担者 |
VRIES D.de オーストラリア海洋科学研究所, 主任研究員
MURPHY P. オーストラリア海洋科学研究所, 部長
QUINN R.J. グリフィス大学薬理学研究所, 所長
菅沼 雅美 埼玉県立がんセンター研究所, 血清ウィルス部, 研究員 (20196695)
伏谷 伸宏 東京大学農学部, 水産科学研究所, 教授 (70012010)
DE VRIES David Researcher, Australian Institute of Marine Science
QUINN Ronald j. Director, Queensland Pharmaceutical Res.Inst.School of Science, Griffith Univers
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研究期間 (年度) |
1994
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研究課題ステータス |
完了 (1994年度)
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配分額 *注記 |
3,300千円 (直接経費: 3,300千円)
1994年度: 3,300千円 (直接経費: 3,300千円)
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キーワード | 海洋天然物 / オカダ酸 / プロテインホスファターゼ / 抗酸化物 / オーストラリア / ミクロチスチン / 発がん抑制物質 / コンピューターグラフィックス |
研究概要 |
1.研究目的 オーストラリア国立海洋科学研究所(AIMS)ベーカー所長、並びに、グリフィス大学薬化学研究所クイン所長と共に、海洋天然物を用いた発がん機構の研究、及び発がんの抑制の研究を進めている。この貴重な共同研究体制を基に、豪日がん研究の新しい芽を作ることを目的としている。がん化学予防薬の研究、抗オカダ酸様物質アゲラシン、並びに、オカダ酸クラス発がんブロモーターのコンピューターモデル等の研究成果を記述する。 2.研究成果 (1) 抗酸化物質による発がん抑制実験 サンゴ礁に生育する生物は、強力なUV、灼熱の太陽光線、に対する防衛手段として抗酸化物質を備えている。AIMSのグループはサンゴ礁から分離した抗酸化物質をリ-ド化合物としていろいろな類縁化合物を合成し、その中で最も安定な化合物を選びsenscreenとしての応用を考えた。発がん抑制に及ぼす抗酸化物質の作用は一般に受けとめられている。私共はこのsunscreen化合物をマウス皮膚発がん二段階実験の系、オカダ酸による発がんプロモーションの抑制を試みた。日焼け防止剤を目的とした抗酸化物質は逆にオカダ酸の発がんプロモーション活性を促進する結果となり、発がん抑制機構の複雑さを痛感した。 (2) 抗オカダ酸様物質アゲラシンの研究 オカダ酸はプロテインホスファターゼ2A(PP2A)の活性を強力に阻害する化合物であり、強力な発がんプロモーターである。逆にPP2Aの活性を促進する化合物が見出されると、発がんプロモーション活性を阻害し、発がんを抑制すると考えられる。AIMSから送られてきた海洋天然物24の抽出物につき、PP2A活性阻害を検討した。一つの海綿抽出物(1mg/ml)がPP2Aの活性を約4倍活性化した。この海綿Agelas axiferaからPP2Aの活性促進化合物としてagelasine-Bが単離された。Agelasine-Bによる活性化の濃度は1mM前後でありかなり高いが、非常に貴重な化合物が得られ、今後プロテインホスファターゼの研究に有益であると注目されている。 (3) オカダ酸クラス発がんプロモーターのコンピューターモデルの研究オカダ酸クラス発がんプロモーターは構造上、4つのタイプ、例えば、オカダ酸、カリキュリンA、ミクロチスチン及びトウトマイシンを含むが、すべてPP1、PP2Aの活性を阻害する。したがって、これら4つのタイプの化合物の一部は共通した構造をもつと考えられた。クイン教授の研究室はコンピューターグラフィックスによって、オカダ酸、カリキュリンAとミクロチスチンに共通する部分構造を見出した。今回、ミクロチスチンのペプチドを7個のL-アミノ酸とD-アミノ酸で合成し、ミクロチスチンの前駆体を合成した。即ち、前駆体はAddaの部分を欠く。クイン教授の研究室からいろいろな前駆体を合成したテイラー研究生が来日し、PP2A活性阻害をテストした。例えば22個のペプチド、4個の環状ペプチドについてテストした結果、M8の環状ペプチド前駆体が1mMの濃度で40%以上の阻害を示した。天然のミクロチスチンの阻害活性に比較すると、50万倍弱いが、基本的考え方が正しいことが証明された。次に環状ペプチドに、オカダ酸のスピロケタールをAddaの代わりに結合させ、ミクロチスチンとオカダ酸のキメラ化合物合成の準備が整った。コンピューターグラフィックスを用いた化合物の研究は最近盛んであるが、キメラ化合物による証明は新しい。 3.研究のまとめ オーストラリアの海洋天然物学者と3年間、2期合計6年間、共同研究を組み、実り多い成果を挙げることができた。予備調査の時、AIMSを訪問し、NCIに海洋天然物を年に1000個発送していることを伺い、その一部で日本と共同研究が可能だろうとのことでこのプロジェクトは始まった。NCIとのプロジェクトが終わってから、オーストラリア政府が外国に天然物を輸送することに制約をかけ、尚、最近では抽出物の発送も困難になった。自然環境の保護と共に、母国の学問の保護に目覚めた感がある。AIMSでは海洋天然物から分離した菌類を培養し、新規化合物の分離を意図していた。海洋天然物を宝庫とする新規化合物の探索はそろそろ終焉を迎えたと思われた。
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