研究課題/領域番号 |
06044009
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
葛巻 暹 北海道大学, 医学部, 教授 (80091445)
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研究分担者 |
MCLAUGHLIN P ケンブリッジ医学研究協会, 研究員
JANMEY Paul ハーバード医科大学, 医学部, 準教授
STOSSEL Thom ハーバード医科大学, 医学部, 教授
藤田 寿一 北海道大学, 医学部, 助手 (30212187)
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研究期間 (年度) |
1994 – 1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
11,200千円 (直接経費: 11,200千円)
1995年度: 5,500千円 (直接経費: 5,500千円)
1994年度: 5,700千円 (直接経費: 5,700千円)
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キーワード | アクチン / ゲルゾリン / 細胞増殖 / 癌抑制 / 変異体 / 膀胱癌 / 大腸癌 / ラス癌遺伝子 / フォスホリパーゼ / PIP_2 / NIH / 3T3 / DNA合成 / 胃癌 |
研究概要 |
1.ヒトの活性化H-ras癌遺伝子により腫瘍化させたマウスNIH3T3細胞(EJ-NIH3T3)に変異原EMSを与えて腫瘍形質を失った細胞株R1を樹立した。この細胞からcDNAライブラリーを構築し、ゲルゾリンの変異遺伝子His321をクローニングした。このゲルゾリン変異体His321を移入したEJ-NIH3T3細胞クローンでは、同系マウスにおいてコントロールとして用いたベクターのみの移入クローンが全例致死的増殖を示したのに比べ、造腫瘍性の喪失が観察された。さらにヒトの正常ゲルゾリン遺伝子を同様にEJ-NIH3T3細胞に移入して発現させたクローンの一つでも、弱いながら腫瘍形質の抑制がみられた。 2.ゲルゾリン変異体His321がマウス癌の増殖を抑制した機構を解析するため、大腸菌で産生させたHis321ゲルゾリンと野生型ゲルゾリンのアクチンに対するアクチン線維切断能(セバリング活性)と重合核形成作用を、これらの蛋白質にピレン・ラベルしたG-あるいはF-アクチンに加え、蛍光の増加(重合)あるいは減少(脱重合)を継時的に観察することにより調べた。その結果His321蛋白質は野生型に比べセバリング活性が低下しており、逆に重合核形成作用は促進していた。このことから、変異ゲルゾリンHis321の点突然変異を含む領域は、ゲルゾリンのアクチン重合調節機能の制御に関与していることが示唆された。次に、His321ゲルゾリンと野生型ゲルゾリンのPIPおよびPIP2に対する作用を比較した。His321はPIPに対する親和性が高く、またより強くPLCγ1活性を抑制した。変異ゲルゾリンのこれら二つの作用、すなわちアクチンに対する作用とPLCγ1に対する作用が共同して腫瘍抑制作用をひきおこしたと考えられた。 3.ゲルゾリンは多くの真核細胞で普遍的に存在するアクチン調節タンパク質としてアクチンの重合一脱重合を抑制し、癌の転移における細胞運動などに重要な役割を果たしている可能性があると考えられる。そこで、ゲルゾリンのセバリング活性をin vitroで抑制する変異体を作製した。ゲルゾリンは6つの繰り返し構造(G1-6)をもち、G1はセバリング活性に必須のドメインである。そこで、G1欠失変異体(G2-6)を作製し、大腸菌の系で発現させ精製して、その性質および野生型ゲルゾリンのセパリング活性におよぼす影響を検討した。G2-6は、ピレンでラベルしたアクチンを用いた活性測定において、セバリング活性を消失していた。一方、重合核形成作用は野生型の約1/2であった。さらに、G2-6は用量依存性に、野生型ゲルゾリンのセバリング活性を抑制した。また、セバリング活性抑制には、Ca2+が必要であった。このことから、欠失変異体G2-6を細胞内で発現することにより内在性のゲルゾリンの活性を抑制し、細胞運動を制御することが可能であると考えられた。 4.ヒト膀胱癌細胞株についてゲルゾリンの産生をヒトゲルゾリンに対するモノクローナル抗体をもちいたウエスタン法で解析した。いずれの細胞株でも正常膀胱粘膜でのゲルゾリン産生に比べ著しい低下をみた。同時にゲルゾリン遺伝子の転写の低下も観察された。さらにヒト膀胱癌組織においても80%近くの例で産生の低下がみられた。ゲルゾリン遺伝子がヒトの癌に対しても癌抑制遺伝子としての機能を持つかどうかを知る目的で、ゲルゾリン遺伝子を発現ベクターに組み込んで膀胱癌細胞株に移入したところ、その細胞株はヌードマウスで増殖するという癌が持つ性質を失った。 5.大腸癌細胞株では7株中4株にゲルゾリン発現の低下が観察された。更に、臨床材料の18検体中9検体では、ゲルゾリンの発現低下が50%に観察された。ゲルゾリンcDNAを移入した大腸癌細胞株では、増殖速度の遅延が認められ、軟寒天培地中での増殖およびヌードマウス皮下での造腫瘍性が抑制された。
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