研究分担者 |
加藤 一郎 東北大学, 医学部, 助手 (50250741)
冨永 悌二 東北大学, 医学部, 助手 (00217548)
CHAN PaK H. カリフオルニア大学, サンフランシスコ校・医学部, 教授
木内 博之 東北大学, 医学部, 助手 (30241623)
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研究概要 |
虚血性および外傷性神経損傷におけるsuperoxideの細胞障害機序の解明とその消去酵素であるsuperoxide dismutase(SOD)の保護効果の解明のため以下の検討をおこなった. 1.in vivo脳虚血実験:SOD活性が3.1倍に増幅されたヒトSOD遺伝子導入マウス(Tgマウス)とコントロールマウス(nTgマウス)においてナイロン糸を経内頚動脈的に挿入するとにより中大脳動脈(MCA)を閉塞し、さらに糸を抜去することにより血流再開が可能な局所脳虚血モデルを用い、あらかじめラットにおいて確定した適正MCA閉塞時間の10分と60分の2群において血流再開後のimmediate early geneのc-fosと70kDa熱ショック蛋白(hsp70)の発現,誘導についてin situ hybridizationを用いて比較検討した.また近年,一酸化窒素(NO)がsuperoxideと反応しperoxynitriteを形成し,さらにhydroxyl radicalも生成することにより細胞障害をもたらすと言われており,60分のMCA閉塞後血流再開24時間の時点におけるNO合成酵素(NOS)阻害剤のL-NAME(神経細胞型と内皮細胞型のNOS阻害剤)および7-NI(神経細胞型NOSのみ阻害)の梗塞巣に及ぼす効果についても検討した.脳梗塞を形成しない10分虚血群ではTgマウスにおいてc-fosとhsp70の発現時間の延長および発現領域の拡大が認められた.しかしMCA閉塞60分群における梗塞巣,hsp70およびc-fosの発現領域は,マウスにおいてより縮小しており,保護効果が認められた.NOSの阻害剤の検討においては,L-NAME投与群ではTgマウスにおいてさえも梗塞巣が増大したが,7-NI投与ではnTgマウスにおいてのみ梗塞巣の縮小傾向が認められ,神経細胞型NOSにより産生されるNOはsuperoxide依存性に虚血神経細胞障害を惹起することが明らかとなった. 2.in vivo神経外傷実験:マウスの頭頂部を開頭し,脳表に直径3mmのピストンを設置し、その上に15gの重りを10cmの高さから自由落下させることにより作成した脳挫傷モデルを用い,SOD活性が1.5,3.1,5.0倍に増幅されたTgマウスにおける外傷後の血液脳関門の透過性と脳浮腫の発生についてnTgマウスと比較するとともに,c-fosとhsp70の発現,誘導についても比較検討した.また外傷後15日間にわたる神経学的所見についても検討した。外傷後の脳浮腫はSOD活性依存性に減少し,その程度は血液脳関門の破綻の程度に相関した.また外傷後におけるc-fos mRNAの誘導はTgマウスにおいてより早期に消退し,hsp70mRNAの誘導もより限局していた.Beam balanceによる神経症状の検討ではTgで有意に改善を認めており外傷後早期からのsuperoxideの消去の有用性が示された. 3.in vitro実験:さらにsuperoxideの血液脳関門におよぼす影響を検討するため、各マウスの脳血管内皮細胞を膜上に一層に培養したin vitroモデルにおいて、細胞内にsuperoxideを発生するmenadionを添加し、電気抵抗を測定した。nTgマウスでも電気抵抗は減弱したが、Tgマウスにおいてはさらに有意に減弱した。しかし、鉄キレート剤であるdesferroxamineの前投与により電気抵抗はnTgとほぼ同様の値に復したことから,TgマウスにおいてSODが増加したためsuperoxid-driven Fenton type Haber-Weise反応により過酸化水素水よりhydroxy radicalの産生を惹起した可能性が示唆された。 以上の結果はSODの脳虚血および神経外傷に対する保護効果を示すとともに,in vitroの特殊な環境下においてはSODの増加がhydroxy radicalの産生を促し、細胞障害性に働く可能性も示唆され、SODが保護効果を発揮するためには、SODにより産生された過酸化水素の消去系が十分に作動することが必須であると考えられた。
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