研究概要 |
イノシトール三リン酸(IP_3)は、セカンドメッセンジャーとして細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からCa^<2+>放出を誘導する。このIP_3誘発Ca^<2+>放出において中心線役割を果たすIP_3受容体(IP_3をリガンドしたCa^<2+>放出チャネルである。IP_3/Ca^<2+>情報伝達系の解析には、IP_3Rに特異的な作用薬、拮抗薬などの開発が期待される。昨年、IP_3Rの新規作用薬として、Penicillium brevicompactumの培養培地中より、アデノフォスチンが単離された。本研究では、アデノフォスチンを用いて、リポソーム上に再構成した精製IP_3RからのCa^<2+>放出活性を測定し、IP_3とのリガンド活性の差異を検討した。IP_3Rの精製およびCa^<2+>放出活性の測定は、昨年度本大会で報告した方法に従った。アデノフォスチン誘発Ca^<2+>放出は、IP_3誘発Ca^<2+>放出に特徴的なquantal Ca^<2+> release (低濃度刺激による部分的Ca^<2+>放出)を示した。アデノフォスチン誘発Ca^<2+>放出のEC50は11nMと求まり、IP_3の場合(EC50=100nM)よりも低く、本来のリガンドであるIP_3よりも強力な作用薬であることがわかった。またアデノフォスチンは、精製IP_3Rへの結合およびCa^<2+>放出において、正の協同性(結合: nH=1.8、Ca^<2+>放出: nH=3.9)を示し、IP_3の場合(結合: nH=1.1、Ca^<2+>放出: nH=1.8)よりもそれぞれ強い正の協同性を示した。 イノシトール三リン酸受容体(IP_3R)は四量体として存在し、イノシトール三リン酸が結合することにより細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からCa^<2+>を放出する細胞内レセプターチャンネルである。IP_3Rには少なくとも3つのタイプ(タイプ1、タイプ2、タイプ3)が存在することが示されており、タイプ間にチャネル機能の差異があることを示唆されている。この3つのタイプのC末端部位を特異的に認識するモノクローナル抗体を作成した。これらの抗体でimmunoblottingを行うと、CHO-K1細胞には3つのIP_3Rが発現していることがわかった。CHO-K1細胞に存在するIP_3Rが各々のタイプからなるホモ四量体のみなの
… もっと見る
か、異なるタイプで形成されるヘテロ四量体なのかを知るために、各々の抗体で免疫沈降を行った。その結果、各IP_3Rタイプが会合していることが示され、IP_3RはCHO-K1細胞内でヘテロ四量体を形成していることが証明された。また、cDNAから同時に発現させたタイプ1とタイプ3もヘテロ四量体をつくることが確認された。ヘテロ四量体は肝臓においても検出された。当研究により、IP_3Rはホモおよびヘテロ四量体をつくることにより、チャンネル活性の多様性を増大していると考えられる。 イノシトール三リン酸(IP_3)受容体(IP_3R)には、3つの異なる遺伝子にコードされたタイプ(タイプ1 : IP_3R1、タイプ2 : IP_3R2、タイプ3 : IP_3R3)が報告されている。ほとんどの組織において、3つのタイプのIP_3Rが発現しており、これらの3つのタイプのIP_3R蛋白質はヘテロ四量体を形成することが明らかになっている。これまでIP_3Rの機能的解析は、各組織から得られる標品を用いて行われてきた。報告されたIP_3Rの性質には相違があり、その原因として、実験条件、組織による細胞内環境の違い以外に、組織による各タイプIP_3Rの分布の違いが影響している可能性がある。本研究では、均質なIP_3R蛋白質を得るためにバキュロウイルス蛋白発現系を用いてIP_3R1およびIP_3R3を発現した。クローニングされたヒトルス蛋白発現系を用いてIP_3R1およびIP_3R3を発現した。 クローニングされたヒトIP_3R1およびヒトIP_3R3のcDNAを用いて組み換えバキュロウイルスを作成し、これをSf9細胞株に感染させて組換えIP_3R蛋白質を得た。これらの感染細胞の膜画分はいずれもIP_3にたいして高いが異なる親和性(IP_3R1 : Kd=60nM,IP_3R3 : Kd=105nM)を示した。機能的に異なるIP_3Rの存在が情報伝達機構に多様性を与える基礎になっていると考えられる。 イノシトール三リン酸受容体(IP_3R,2749アミノ酸)のアミノ末端側650アミノ酸内には、リガンドであるイノシトール1,4,5-三リン酸(1,4,5-IP_3)を特異的に認識する領域が含まれていることが知られている。IP_3Rのリガンド結合領域を大腸菌で発現する系を確立し、リガンド結合活性を欠く部位特異的アミノ酸置換変異体を作製し、リガンド結合に関与するアミノ酸に関して昨年度の本大会にて報告した。種々の欠失変異体を作製し、リガンド結合に必要な領域を特定した。さらに、この領域内に部位特異的変異を導入し、リガンド結合活性とイノシトールポリリン酸の結合選択性を解析した。その結果、1アミノ酸の置換により1,4,5-IP_3に対する親和性は低下するが、2,4,5-IP_3に対する親和性は変化せず、結果として1,4,5-IP_3と2,4,5-IP_3を同等の親和性で認識する変異体が得られた。また、1,4,5-IP_3に対してより高い親和性を示す変異体も得られた 隠す
|