研究分担者 |
外山 毅 高エネルギー物理学研究所, 加速器研究部, 助手 (30207641)
佐藤 皓 (佐藤 晧) 高エネルギー物理学研究所, 加速器研究部, 教授 (80100816)
ARENDS H.J. Mainz大学, 原子核物理教室, 教授
REICHERT E. Mainz大学, 物理教室, 教授
ALTHOFF K.H. Bonn大学, 物理教室, 名誉教授
REICHERT T. Bonn大学, 物理教室, 教授
HUSMANN D. Bonn大学, 物理教室, 教授
SCHOCH B. Bonn大学, 物理教室, 教授
REICHELT T. Bonn University, Professor
ARENDS J. Mainz大学, 物理教室, 教授
VON Drachenc Bonn大学, 助教授
REICHELT T. Bonn大学, 助教授
MEYER W. Bonn大学, 講師
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研究概要 |
(1)全体の進行状況 私たちの目標は,Mainz及びBonn両大学に於いて,それぞれ稼働中のMAMI,ELSAの両加速器による偏極電子ビームの加速を実現して,この加速器がカバーするエネルギー領域の素粒子実験を遂行することにある.当面の実験の目標として「GDH (Gerasimov-Drell-Hearn)総和則の検証」を念頭に置いて準備を進めてきた.Mainzにおける準備は偏極ビーム,偏極ターゲット,粒子検出器を含めて概ね順調に進んでおり,1997年度には実験エリアへの全装置の設置を完了してビームを用いた予備実験も開始される予定である.さらにBonn大学においても偏極電子源の作り替えを行ないビーム強度の点では初期の目標値を達成できる段階となった.今後は偏極度測定系の整備/製作を行ないELSAにおける加速途中の減偏極共鳴の克服へと研究を進める予定である. (2)Mainzの偏極電子ビーム開発研究 Mainzでは偏極電子銃装置はすでに実用化の段階に達したが,1995年度には超高真空を破らずにカソード交換が可能となるロードロック機構を追加することができた.他方,偏極電子フォトカソードについてはまだまだ改善の余地があった.すなわちビーム強度が要求される物理実験に於いては,偏極度〜40%(量子効率〜2.0%)のバルクGaAsや偏極度〜50%(量子効率〜1.5%)の歪みInGaAsPが従来は使用されてきた.この事態を打開すべくより優れた性能が期待できる超格子フォトカソードをMainzに持ち込んで性能試験を実施した.このカソードは名大/KEK/NECがすでに2年前に共同開発したものである.Mainzの電子銃で得られた結果は,偏極度〜61%(量子効率〜2.0%)であり,その優秀性が実証された.またMAMIでの加速試験も実施しメラ-ポラリメーターでの偏極度測定も行ない実用化へのメドをつけた.このカソードはGDH実験の後に計画されている「陽子-電子弾性散乱に於けるパリティ非保存の測定」実験など,強いビームが要求される実験に使用すべく今後はさらに寿命などに関する試験を続ける予定である.また弱いビーム強度しか使えない標識付きγビームを使うDHG総和則の実験には,我々が開発した80%以上の高い偏極度が期待できる歪みGaAsや歪み超格子フォトカソードの使用が考えられ,これらを日本から持ち込んで同様の
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性能試験を行なうことにした. 以上のようにMainzの偏極電子ビームはマイクロトロン加速器本体が全体としてのビーム移送効率が10%であるなど素晴らしい性能を発揮していることもあり,1996年度開始のGDH実験に対する準備はほぼ完了している. (3)Bonnの偏極電子ビーム開発研究 Bonn大学には名大から派遣している大学院生(中村)が長期にわたって滞在し偏極電子銃作製に携わり名大がこれを支援するという形の共同研究を実施してきた.当初順調に行かなかった電子銃も新たな作り替えによって1996年には所期の目標であったビーム強度100mA/(1マイクロ秒)を実現できた. この電子銃の設計には負の電子親和性(NEA)を持たせた表面が汚染されることに起因するNEAカソードの寿命の短さの克服のために放電暗電流の抑制とカソード表面付近の超高真空の実現に特に留意した.Bonnの電子銃は3段に分割したセラミックに40KVずつ印加して全体として120KeVを得るタイプであるが,特に電極間の放電暗電流抑制には次の(4)で報告する手法を応用した電極を名大で設計/作製してBonnの装置に組み込んだものである.この結果放電暗電流は2nA以下に抑えられ,ピーク電流100mA(平均5μA)の運転においてもNEA表面を安定性に維持できた. さらに偏極電子ビームをELSAで加速した後に実験エリアに引き出す試験を実施中であるが,すでに0.5nA(直流)は確認している.今後の開発課題は3つの加速器(20MeV入射ライナック,2.5GeVシンクロトロン,3.5GeVストレッチャー)でのビーム移送の効率の改善である.この観点からみた現システムの効率は残念ながら10^<-4>と非常に悪い.粒子検出器系の制約から弱いビーム強度しか使えない標識付きγ線を使うDHG総和則の実験などは,0.5nAでも可能であるが,より高いビーム強度が要求される電子線を用いる実験は現在の移送効率では(統計が稼げず)難しい.すでに偏極電子源でのビーム強度は最大に近い値を達成しておりこれを1桁以上も上げるのは困難であり,加速器自体の改善が必要である.当面はとりあえず偏極電子ビームのような弱い強度でも働くビームモニターを開発し加速器の調整に役立てる予定である. これとは別にELSAのような円形加速器において加速途中での減偏極共鳴により偏極度が低下する問題がある.KEKの外山がシミュレーション予測により減偏極共鳴をチューンジャンプで克服する方法を提案し必要なパルス磁石系の設計を行なった.当面は実験エリアでの偏極度測定のためのスピン回転ソレノイドとメラ-ポラリメーターの立ち上げを実施中であり,この後偏極電子ビームによる減偏極共鳴の観測に進む予定である. (4)日本における偏極電子源開発研究 海外の加速器での共同研究を支えるのみならず我が国におけるリニアーコライダー建設計画と連動した偏極電子源の開発を名大/KEKの共同研究として系統的に継続している.最近の特筆すべき進展は電極間の放電暗電流の抑制に関する基礎研究を行ないステンレス鋼に関してはその作製手法をほぼ確立することができたことである.すなわち34MV/mの表面電界に対し電界放出暗電流を90pAに抑えることに成功した.この値は画期的なものであり,ステンレス鋼の選択,研磨,洗浄,クリーンルームでの組み立てに現在使用し得る最先端技術を導入したことによる.またこの電極を使用した電子銃によるNEA表面状態の安定保持によるカソードの長寿命化に関しては,100KV印加,平均5μAのビーム引き出しの条件下で50時間以上の寿命を確認し,寿命問題を解決できるメドをつけることができた. 隠す
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