研究課題/領域番号 |
06044104
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
早川 哲夫 名古屋大学, 医学部, 教授 (80022838)
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研究分担者 |
CETIN Yalcin ハノーバー医科大学, 教授
WRAY Victor 国立バイオテクノロジー研究所(GBF), 研究員
TSUJI Shiger ピエールマリーキュリー大学, 神経科学研究所, 教授
古家 園子 (古屋 園子) 岡崎国立共同研究機関, 生理学研究所, 助手 (20096952)
軒原 清史 島津製作所, 中央研究所, 主幹研究員 (60137073)
北川 元二 名古屋大学, 医学部, 助手 (80262898)
成瀬 達 名古屋大学, 医学部, 講師 (50180550)
小林 繁 名古屋大学, 医学部, 教授 (00018342)
TSUJI Shige ピエールマリーキュリー大学, 神経科学研究所, 教授
KIFFE michae 国立バイオテクノロジー研究所(GBF), 研究員
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研究期間 (年度) |
1994 – 1996
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研究課題ステータス |
完了 (1996年度)
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配分額 *注記 |
12,100千円 (直接経費: 12,100千円)
1996年度: 4,800千円 (直接経費: 4,800千円)
1995年度: 3,500千円 (直接経費: 3,500千円)
1994年度: 3,800千円 (直接経費: 3,800千円)
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キーワード | グアニリン / プログアニリン / 免疫組織化学 / 消化管 / 腎臓 / ラジオレセプターアッセイ / 分子構造 / オートラジオグラフィー / (1)グアニリン / (2)プログアニリン / (3)免疫組織化学 / (4)消化管 / (5)腎臓 / (6)ラジオレセプターアッセイ / (7)分子構造 / (8)オートラジオグラフィー / エンテロトキシン / 異性体 / NMRスペクトル / 特異抗体 / 消化管粘膜 / エンテロクロマフィン細胞 |
研究概要 |
ラットの小腸より単離され、大腸菌の熱耐性エンテロトキシンと類似の構造をもつ15アミノ酸残基グアニリンは、小腸のグアニレートサイクレースC活性を上昇させ、Cl分泌の亢進とNa、Clの吸収の抑制をきたす。大腸菌の熱耐性エンテロトキシンは、このグアニリン受容体を介して下痢を誘発する。小腸はグアニリンを管腔内に分泌することにより、水および電解質の吸収分泌を調節しているが、どの細胞がグアニリンを産生するかは報告者により異り、一致をみない。グアニリンの分泌機序を解明することは、正常な小腸の分泌・吸収機能を理解するためだけでなく、臨床における下痢の病態の把握と治療のために極めて重要である。本研究計画では、この問題を解決するために、cDNAから推定されるプログアニリン構造に基づき複数のプログアニリンフラグメントを化学合成し、その特異抗体を用いてグアニリン産生細胞の免疫組織学に検索した。ヒトプログアニリン1-15に対する特異抗体はヒトおよびラットの消化管粘膜の基底顆粒細胞を特異的に認識した。この免疫反応はヒトプログアニリン1-15により完全に吸収された。プログアニリン陽性細胞は主として胃幽門部および十二指腸に存在し、回腸では少なく、大腸には僅かにしか存在しなかった。同一切片における二重染色法によりプログアニリン陽性細胞はセロトニンを含有せず、ソマトスタチンを産生するD細胞であると考えられた。これらの成績はグアニリンは小腸の管腔内だけではなく、基底膜側にも分泌され、局所ホルモンもしくは循環ホルモンとして作用している可能性が示唆された。 グアニリンの作用部位は検索するために、まず^<125>I標識グアニリンをラクトパーオキシデ-ス法により作成した。この標識グアニリンの受容体との反応を見るために、ラット小腸粘膜標本を作成し、ラジオレセプターアッセイを試みた。^<125>I標識グアニリンの小腸粘膜標本への結合はグアニリンおよびエンテロトキシンにより用量依存性に阻害され、Kd値は両者ともに約10^<-6>Mであった。従って、この^<125>I標識グアニリンはグアニリン受容体と特異的に結合すると推定された。この^<125>I標識グアニリンを麻酔下のラットの静脈内に投与し、経時的に灌流固定し、グアニリンの作用もしくは代謝部位をオートラジオグラフィー法により検索した。^<125>I標識グアニリンの放射活性の集積は腎臓で一番高かったが、30分後には腎の放射活性は1/2以下になった。腎では^<125>I標識グアニリンは近位尿細管の管腔面に結合を認めることから、糸球体で濾過されたグアニリンは近位尿細管で再吸収されると推定された。また、グアニリン投与後、集合管の主細胞の縮小と管腔面の拡大を認め、グアニリンには利尿作用があることが示唆された。一方、消化管では十二指腸の陰の杯細胞からの粘液分泌が惹起された像が認められた。この変化は非標識グアニリンによっても引き起こされたが、絨毛の杯細胞はグアニリンに対して反応しなかった。また、グアニリン投与直後には粘膜下組織の浮腫を認めたが、この変化は約30分で消失した。以上の成績は、基底膜側に分泌されたグアニリンは局所ホルモンとして、消化管の水の代謝と粘液分泌に関与している可能性を示唆している。 グアニリンには4個のシステイン残基が存在することから、ジスルフィド結合の組み合わせにより、幾つかの構造を取りうる。エンテロトキシンの構造から推定される4-12位、7-15位にズスルフィド結合を有するグアニリンおよびエネルギー計算上可能な構造4-15位、7-12位にジスルフィド結合を有するグアニリン異性体を合成した。NMRスペクトル分析により天然型合成グアニリンは立体異性体が1:1で混在しており、両者は現時点での分析技術では分離不可能であった。一方、異性体は単一物質であり、単一構造を示した。^<125>I標識グアニリンを用いた小腸粘膜標本へのラジオレセプターアッセイを用いて、グアニリンおよびそのジスルフィド結合異性体の小腸粘膜標本への結合を比較した。グアニリンの小腸粘膜標本への結合はエンテロトキシンとほぼ同等であり、グアニリン異性体の結合はエンテロトキシン型に比べ低かった。大腸菌の熱耐性エンテロトキシンは世界各地にある「旅行者の下痢(traveller's diarrhea)」の主な原因であり、また、発展途上国における小児の主要な死亡原因の一つである。グアニリンの拮抗薬は、このペプチドの生理的役割を明らかにするためばかりでなく、臨床における下痢や消化管手術後の病態などの理解と治療への寄与が期待されるが、その開発は今後の課題である。
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