研究課題/領域番号 |
06044120
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 矩行 京都大学, 大学院・理学研究科, 教授 (30025481)
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研究分担者 |
デビッドソン エリック 米国カリフォルニア工科大, 生物学教室, 教授
ジェフェリー ウィリアム 米国カリフォルニア大, デイビス校・ボデガ海洋研究所, 教授
JEFFER William R Bodega Marine Lab., Univ.of California, USA
DAVIDSON Eric Division of Biol., California Inst.Tech.USA
デビッドソン エリック・ 米国カリフォルニア工科大, 生物学教室, 教授
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研究期間 (年度) |
1994 – 1996
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研究課題ステータス |
完了 (1996年度)
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配分額 *注記 |
7,500千円 (直接経費: 7,500千円)
1996年度: 2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
1995年度: 2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
1994年度: 2,700千円 (直接経費: 2,700千円)
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キーワード | 脊索動物 / 起源と進化 / 脊索 / ホヤ / ウニ / ナメクジウオ / T遺伝子 / HNF-3遺伝子 / ギボシムシ / 無尾幼生ボヤ / 遺伝子発現 / 無尾幼生 / 有尾幼生 |
研究概要 |
脊索動物(尾索類+頭索類+脊椎動物)は棘皮動物および半索動物と多くの形質を共有し、これらの動物群は新口動物として共通の祖先から由来したと考えられている。一方脊索動物のみを特徴づける形質として、脊索、その背側を走る中空の神経索、鰓裂などがあげられるが、中でも脊索は脊索動物という名がそこから由来するように最も重要な形質である。最近になって脊椎動物(高等な脊索動物)の脊索の発生に関わる遺伝子としてBrachyury(T)遺伝子およびHNF-3遺伝子がクローニングされた。我々がこの遺伝子のホモログを原始的な脊索動物である尾索類のホヤから単離してその発現を調べてみると、ホヤのT遺伝子は発生にともなって予定脊索細胞でのみ発現することがわかった。すでに述べたように脊索は脊索動物を特徴づける最も重要な形質の一つであるので、新口動物の中で脊索をもたない棘皮動物のウニや半索動物のギボシムシ、脊索をもつ尾索類のホヤや頭索類のナメクジウオのT遺伝子およびHNF-3遺伝子の解析を通して、脊索動物の起源と進化を分子発生生物学的に国際共同研究にしたいと考えた。またさらに、ホヤの仲間には通常のオタマジャクシ幼生を発生されるもの(有尾種)の他に、進化的に尾を失った幼生を発生させる種(無尾種)がいる。この両者の発生のメカニズムを分子生物学的に研究することによって、進化に伴う発生様式の変異の機構を理解できるのではないかと考えた。 これらの点についてこの3年間に次のような研究をおこなった。 1.T遺伝子について:これまでの研究からT遺伝子はウニ、ホヤ、ナメクジウオで保存されていることがわかった。すでに述べたようにT遺伝子はホヤでは脊索でのみ一過的に発現する。またT遺伝子はナメクジウオでは脊索および体節中胚葉で発現する(脊椎動物に近い発現パターン)。一方ウニでのその発現も一過的で、原腸胚期に二次間充織の創始細胞で発現する。ギボシムシについてはその初期発生の観察にようやく成功し、現在T遺伝子の単離を急いでいる。 2.HNF-3遺伝子について:つぎにHNF-3遺伝子について解析した。その結果、ホヤのHNF-3遺伝子は内胚葉・脊索・神経索で、またナメクジウオのHNF-3遺伝子は内胚葉と脊索で発現することがわかった。さらにウニのHNF-3遺伝子は原腸胚の内胚葉で発現することが判った。 以上の結果から、ギボシムシのデータがまだ欠けてはいるものの、T遺伝子およびHNF-3遺伝子は全ての新口動物で保存されており、本来中胚葉および内胚葉から器官が形成されることに関与していた遺伝子が、脊索動物の出現とともに脊索形成に関与するようになったものと考えられる。現在のT遺伝子の発現調節領域および下流遺伝子についてホヤとウニで比較的解析を急いでいる。 3.ホヤの有尾種および無尾種の比較解析:この二種の比較解析から、これまでに次のようなことが明らかになった。(a)無尾種では尾の発達すなわち筋肉細胞および脊索細胞の分化がおこらない。そこでまず筋肉アクチン遺伝子について解析したところ、その無尾種の筋肉アクチン遺伝子は発現しておらず、その原因として遺伝子の発現調節機構は保持されているものの、遺伝子のタンパク質のコード領域に沢山の変異や欠損や挿入が起こっていることがわかった。(b)一方、脊索形成に関与するT遺伝子について解析したところ、両種で遺伝子は発現されていることが判った。このことはT遺伝子の下流の遺伝子に変異が起こっていることを示唆する。(c)さらにチロシナーゼ遺伝子について解析したところ、この遺伝子の変化は両者で認められ無かった。これらの結果は、尾を失うという進化過程において、尾の形成に関わるさまざまな遺伝子が異なった度合いで変化していることを示唆する。 この研究で得られた成果は脊索動物の起源と進化の分子発生生物学的メカニズムに初めて本格的なメスを加えたものであり、今後の研究の継続が重要である。
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