研究課題/領域番号 |
06044163
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
井上 勲 徳島大学, 酵素科学研究センター, 助教授 (80001973)
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研究分担者 |
CHRACHRI Abd プリムス海洋生物研究所, 研究員
WILLIAMSON R プリムス海洋生物研究所, 上級研究員
BROWN Euan R プリムス海洋生物研究所, 上級研究員
BONE Quentin プリムス海洋生物研究所, 部長
久木田 文夫 生理学研究所, 生体膜, 助手 (40113427)
筒井 泉雄 生理学研究所, 生体膜, 助手 (80202183)
山岸 俊一 生理学研究所, 生体膜, 教授 (70014032)
ABBOTT N.Joa ロンドン大学キングス校, 副教授
BROWN R.Euan プリムス海洋生物研究所, 研究員
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研究期間 (年度) |
1994 – 1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
9,900千円 (直接経費: 9,900千円)
1995年度: 4,900千円 (直接経費: 4,900千円)
1994年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
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キーワード | 骨格筋細胞 / 興奮・収縮連関 / カルシウムイオン / 分子進化 / 頭索類 / 無顎類 / ニフェジピン / 神経細胞 / Nerve |
研究概要 |
1.高等脊椎動物骨格筋興奮・収縮連関においては、細胞膜興奮に伴う脱分極が直接細胞内Ca^<2+>放出をトリガする(Depolarisation-induced Ca^<2+>-release : DICR機構)。一方、無脊椎動物横紋筋興奮・収縮連関においては外液中のCa^<2+>の細胞内への流入が必須である。本国際共同研究においては、第一段階として細胞生理的手法に系統発生学的アプローチを加え、動物進化のどの過程で興奮・収縮連関機構が質的に異なったのか、その進化点を特定し、進化に伴い新たに現れた特性を解明することにあった。その結果、進化は頭索類と無顎類の間で起こり、進化に伴い、T-管膜における固定電荷移動(Intramembrane Charge Movement ; IMCM)の中でDihydropyridine (DHP)誘導体であるNifedipineで特異的に阻害される成分Nifedipine-Sesinsitive Charge Movement (Qnf)が発現した事を示した。本年度は先ず、DICR機構に関して我々が提唱した仮説、「細胞脱分極信号を小胞体(SR)に伝えCa^<2+>遊離をトリガする機構の実体は、Qnfである」の検証を行った。Ca^<2+>蛍光剤を用いて細胞内Ca^<2+>濃度変化を実時間計測するための蛍光励起・測光装置を作成し既存のNikon TMD倒立顕微鏡に取り付け、単離骨格筋細胞からのIMCMとCa^<2+>シグナリングの同時測定を行った。その結果我々の仮説は証明された。すなわち、動物進化において無顎類以上の脊椎動物の骨格筋細胞はQnfを有し、細胞内Ca^<2+>放出をトリガし、一方、頭索類以下の無脊椎動物はQnfを持たず筋収縮にはCa^<2+>の細胞内への流入を必須とすることが、本国際共同研究を通じて明らかになった。 2.脊椎動物、無脊椎動物ともに、骨格筋(横紋筋)興奮・収縮に与る細胞膜内の物質はDHP-受容体である。しかし、両者で膜内信号伝達機構が質的に異なる事は、頭索類から頭索類に至る進化過程でDHP-受容体の分子進化が起こり脊椎動物型の興奮・収縮連関機構を獲得した事を強く示唆する。我々は進化点前後に位置する動物種のDHP-受容体の構造を調べ比較する事によって脊椎動物型興奮・収縮連関機構の構造・機能相関を明らかにすることを試みた。これまで無顎類Lamprey(スナヤツメ)体側筋DHP-受容体のクローニングに成功した。頭索類Amphioxus(ナメクジウオ)については現在解析中である。 3.心筋興奮・収縮連関においても細胞膜内の信号伝達はDHP-受容体による。心筋収縮もCa^<2+>の細胞内への流入を必須すると考えられていた。しかしごく僅かながらQnfを有する。原索動物Ciona(ユ-レイボヤ)心筋標本を用いてCa^<2+>の流入の必須生を検証した。外液からCa^<2+>を完全に取り除いた後も、低濃度のCaffeine、あるいはSCN^-存在下では電気刺激にたいする収縮応答が認められた。このことは心筋にも僅かながらDICR機構が存在する事を示す。 4.無脊椎動物横紋筋はQnf、DICR機構を持たないが、無脊椎動物であるザリガニ神経裁縫でQnfを検出した。このことは、神経にDICRが存在する可能性を示唆し、かつその発現は骨格筋よりも早い可能性を示唆する。 5.原索動物Doriolum(ウミタル)横紋筋細胞はT-管もSRも持たない。SRCa^<2+>チャネルモジュレーターであるRyanodine、Caffeineは興奮・収縮連関に何の影響も与えなかった。したがって収縮はCa^<2+>流入にのみによる。他の無脊椎動物横紋筋はSRを有し、Caffeine収縮も認められるが通常の興奮・収縮連関においては(計算からも)SRからのCa^<2+>放出は必要なく、Ca^<2+>スパイクに伴い流入したCa^<2+>で十分であろうと考えられる。これらにおけるSRの機能はむしろ細胞内の余剰のCa^<2+>の取込にあり、心筋、放出が生理的に重用になったのはこれもSRのCa^<2+>チャネルの分子進化によるものと考えられる。今後の研究課題である。 本国際共同研究においては、研究目的の大部分は達成できた。更に、生理機構の分子構造・機能発現機構の解明のための系統発生学的アプローチの有用性を示した。本研究に限っても、細胞内Ca^<2+>制御機構の分子系統という新たな魅力的な研究課題が派生し、継続的な国際共同研究に育った。スポンサーシップに感謝する。
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