研究分担者 |
SUNG Hyung J 韓国科学技術院, 工学部, 教授
平野 博之 九州大学, 機能物質科学研究所, 助手 (60264115)
鎌倉 勝善 富山工業高等専門学校, 助教授 (40042832)
HYUN Jae Min 韓国科学技術院, 工学部, 教授
KAMOTANI Yas ケースウエスタンリザーブ大学, 工学部, 教授
JAE Min Hyun 韓国科学技術院, 工学部, 教授
YASUHIRO Kam ケースウエスタンリザーブ大学, 工学部, 教授
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研究概要 |
二液層系の二重対流拡散において、先に、両層の境界面が徐々に上方へ移動する現象が観察されていたが、この理由が不明であった。温度の体膨張係数、濃度の体膨張係数、動粘度、温度拡散率、拡散係数の諸物性値を温度の関数として表し、数値解析を行った。ここでKCl水溶液の場合を例とした。この結果、温度の体膨張係数と温度拡散率、拡散係数の三つを全て温度依存させることにより水層側の領域に18%もの界面移動が生じることが認められた。またこのような原因としては加熱、冷却壁に沿って両液層面に衝突する境界層流れの慣性力の違いによることが流速分布から考えられた。 また二液層の接触から完全な崩壊と一液層への遷移過程を含めた数値解析を行った。これはプラントルPr=6,ルイス数Le=10,アスペクト比A=4,レイリー数Ra=10^5,浮力比N=2の場合で無次元時間τ=2.41において崩壊した。KCl水溶液の場合、実験では4cm幅,16cm高,10cm奥行きの水槽で10℃の温度差で9時間を経過しても崩壊しなかった。 二液層の下層の塩水層から上部の水層への溶質の移動によって二重拡散自然対流が生じるが、この移動速度を数値解析により求めた。数値計算はPr=6,A=4,Ra=10^4,N=2,3,5,10,Le=10,20,30,50,100について行った。 このようなデータの組み合わせに対し数値計算を行い、濃度の移動速度dc/dτを求めた。その結果、データは次のような経験式で表されることが解った。dc/cτ=(2.78/N+0.28)Le^2,ここでN=2〜10でa=-0.61〜-0.71となった。これは対流層間の物質移動速度は両層間の濃度差によらず、拡散係数に依存するということが結論づけられた。これはまた先に鎌倉により測定されていた実験結果を説明するものである。物質移動速度が濃度差に依存しないのは、対流層間の濃度勾配が一定であると推定できた。 以上は二重拡散自然対流でよく観察される多数のセル状ロールのうち2つだけを取り出した場合の二液層であったが、次に上下方向に最初は一様で、左右の側壁から加熱・冷却され、かつ側壁上の濃度が±0.5であるような場合を取り上げた。これは側壁が電極のような場合に相当し、本研究分担者のKamotani教授が長年取り組んでいる系である。まず加熱壁で低濃度、冷却壁で高濃度という場合を取り上げた。この場合温度差の基づく浮力の方向と、濃度差に基づく浮力の方向がどちらの側壁でも同方向であり、全層対流が起こるように思われるが、実際には低濃度液が層の上部に停滞し、一方、高濃度液が層下部に停滞し、中央部分には平均濃度に近い液層が温度差にのみ依存した小規模の対流渦を呈することが解った。これは従来のKamotaniらの解析解と一致する特性である。さらに本研究では、結晶成長を想定した低Pr数の場合を取り上げ、Pr=0.01,Le=100,A=2,Ra=10^4,N=0,3,10,20という場合を取り上げた。その結果N=0と3では低プラントル数流体特有の真円に近い対流渦が槽の中央高さに形成されたが、浮力比N=10,20になると、全槽対流と真円対流が交互に出現するようになり、平均ヌセルト数も無次元流速も大きく周期的に変動する解が求められた。このような系は極めて周期変動の大きな不安定な特性を持つことが認められ、ミクロ構造に影響が大きいと考えられる。次に加熱壁で高濃度、冷却壁で低濃度という場合を取り上げた。この場合、両者の浮力は共に相殺し、高濃度液を温度浮力で持ち上げようとして途中で加熱壁より離れていくという現象が現れるが、実際には更に浮力比がパラメータとして作用するので、Nが0.5,1,2位まではほゞ全槽対流であるが、N=3,10では周壁に沿う濃度差対流に対し、コア部分には個別の温度差対流が現れるという極めて特異な対流が出現した。しかし側壁上の平均ヌセルト数は前者の場合、大きな振動を呈した。 以上のような多数の新しい知見を科学工学会第28回秋期大会にて展望講演の機会を与えられてまとめて報告できたのは望外の幸いであった。 その他、ガス相についての二重拡散対流の問題をオランダ,デルフト大学での長期滞在において鎌倉氏が実施でき、多くの新しい成果を得、本年イタリアで発表を予定している。二年間で本研究は外国誌,国際会議等で12件の業績としてまとめることができたのも予想外の大成果であった。
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