研究分担者 |
GISPEN W.H. ルドルフマグノス研究所, 教授
SODERLING T. オレゴン健康科学大学, ヴォーラム研究所, 副所長
ALKON D.L. NIH, NINDS, 主任研究員
榊原 学 東海大学, 開発工学部, 教授 (10135379)
御子柴 克彦 東京大学, 医科学研究所, 教授 (30051840)
桐野 豊 東京大学, 薬学部, 教授 (10012668)
KIRINO Y. Sch.of Pham.The Univ.of Tokyo
MIKOSHIBA K. Institute of Med.Sci.The University of Tokyo
吉田 明 早稲田大学, 人間総合研究センター, 助手 (70257187)
川原 茂敬 東京大学, 薬学部, 助手 (10204752)
DE Barry J. (仏国)CNRS, 研究員
工藤 佳久 三菱化学, 生命科学研究所, 部長
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研究概要 |
この研究の目的は記憶・学習の基礎過程と考えられているシナプス伝達効率の可塑的な変化の分子機構を国際的な共同研究によって明らかにすることである。この目的を達成するために今年度は特に以下の3点に焦点を絞って研究を行った。 (1)Cキナーゼのトランスロケーションの可視化 昨年から引き続き,Cキナーゼの特異的蛍光プローブfim-1による観察を検討した。fim-1によるウニ卵のPKCイメージングを詳細に検討した結果,このイメージング法では,共存するリン脂質の濃度や組成により大きく影響されることが分かった。また,小脳スライスやGH3細胞に対し,fim-1を負荷し,そのPKCイメージングを観察したが,ウニ卵の場合と異なり,そのトランスロケーションは全く観察されなかった。ウニ卵の研究については第1報がDevelopmental Biologyに採択された。第2報は本日(3/1)現在準備が完了し,Experimental Cell Researchに投稿する手筈になっている。なお,この研究成果の学会発表は主にヨーロッパの生化学会で行った。なお,この研究は主にNIHのD. L. Alkon研究室との共同研究によって行った。特にフランスのCRNSのJ. de Barry研究員もこの研究に部分的に関与し,重要な貢献を行った。 (2)CaMキナーゼによりリン酸化されるタンパク質 CaMキナーゼはCaとカルモジュリンによって活性化されるリン酸化酵素である。今回はシナプス小胞に存在し,膜融合を制御していると考えられるシナプトタグミンのリン酸化が,このキナーゼによって行われるか否かについて検討した。その結果,PC12細胞に存在するシナプトタグミンはCaMキナーゼIIによりリン酸化されることが分かった。これはVollum研究所のSoderling博士との共同研究によるものであり,この研究成果は米国神経科学学会において発表した。 (3)その他の共同研究 上述の他に以下に述べるような研究分担者との共同研究を行った。 (a)ウミウシ視細胞の光受容機構に関する研究 ウミウシの連合学習は光刺激と振動刺激という二つの相異なる刺激方法により行われ,視細胞からの出力が,スタトシストと呼ばれる振動受容細胞からの出力により修飾されることが分かっている。しかし,その根本にある視細胞における光応答のメカニズムについては全く不明のままであり,この機構の解明には多くの研究者が長年の時間をかけてアプローチしてきたが有力な見解はいまだ得られていない。しかし,このほどようやくわれわれがこの問題についての解決の糸口を見いだした。すなわち,(1)光を受容して開くNaチャネルは,いわゆる環状ヌクレオチド感受性チャネルである。(2)このチャネルはホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸の加水分解に伴う・膜表面からの負電荷のリリースによって解放される,というものである。この研究成果は可塑性の研究から自然に産み出されたものであり,むしろこの研究成果の方が神経科学の進歩により大きなインパクトを与えることが予想される。 (b)マウスに関する新しい条件づけ・瞬目反射測定装置の完成 マウスの瞬目反射反応は数多くの記憶・学習のアッセイ法のうち,最も定量性に優れた方法であるが,これまでのやり方は,マウスの身体を一ケ所に固定するなど,マウスに大きなストレスを与えるものだった。今回われわれが試作した新しい装置は,オリジナルは南カリフォルニア大学のThompson博士によって考察されたものであるが,われわれが大幅に改良したもので一度に8匹までのマウスについて瞬目反射反応実験を可能とするもので,データ解析も瞬時に行うことができるようになっている。この装置を用いて,われわれは中西研(京大)勝木研(東大)よりさまざまなノックアウトマウスを供給してもらい,そのアッセイを行っている。この研究成果は来年度に公表される予定である。 (c)マウス脳の全タンパク質をリン酸化する新しい方法の開発 これまで生きている個体や細胞を^<32>P正リン酸を用いてリン酸化するには莫大量(10^6個培養細胞では数ミリキューリ-)の放射性正リン酸が必要とされた。われわれはわずか100マイクロキューリ-の^<32>Pを用いて生きているマウスの全脳タンパクをリン酸化することに成功した。
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