研究課題/領域番号 |
06044208
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
西岡 久寿樹 聖マリアンナ医科大学, 難病治療研究センター, 教授 (60049070)
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研究分担者 |
GAY Steffen チューリッヒ大学, リウマチ科, 教授
STEFFEN Gay Division of Rheumatology, Zurich University, Professor
STEFFEN Gay チューリッヒ大学, リウマチ科, 教授
森本 幾夫 ハーバード大学, 癌研究所, 準教授
KRIEG Arthur アイオワ大学, 医学部, 教授
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研究期間 (年度) |
1994 – 1996
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研究課題ステータス |
完了 (1996年度)
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配分額 *注記 |
8,300千円 (直接経費: 8,300千円)
1996年度: 1,600千円 (直接経費: 1,600千円)
1995年度: 2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
1994年度: 4,500千円 (直接経費: 4,500千円)
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キーワード | アポトーシス / HTLV-1tax遺伝子 / 単クローン性滑膜細胞 / 抗Fas抗体 / HTLV-l tax遺伝子 / HTLV-I tax遺伝子 / 滑膜増殖 / Fas抗原 / 骨関節破壊 / HTLV-Itax遺伝子 |
研究概要 |
1.ヒトT細胞白血病等のリウマチ病因ウイルスの検討及び周辺疾患への関与 (1)この研究の発端は、HTLV-1関連疾患として知られていたATLとHAM/TSPの患者の一部にリウマチ様の症状が認められ、とくに著明な滑膜増殖が認められる症例を経験し、関節液細胞中に、異型リンパ球の浸潤を認めたケースに端を発する。すなわち、HTLV-1は当初、ヒトT細胞白血症(ATL)の原因ウイルスとして同定されたが、その後、神経疾患(HAM/TSP)を招くことも明らかにされた。その後、我々のグループによって提唱してきた免疫異常を呈する関節症やシェ-グレン症候群(HTV-1 associated arthropathy:HAAP)の臨床的概念の提唱は、本ウイルスの自己免疫疾患への関与という新しい局面を迎えるに至った。すなわち、HTLV-1というレトロウイルス及びその遺伝子産物が腫瘍、神経、免疫系とそれぞれ独立した病態群と密接な関連を有することが明らかにされて来た。この成果は、これまで全く成因不明であった免疫原性の難治性疾患の病因究明に新しいパラダイムを展開させる大きな突破口を切り拓くことになった。 (2)HTLV-1P40X遺伝子の増殖機構アポトーシス 滑膜細胞増殖機構に対してHTLV-1P40X領域でコードされたTax蛋白は、AP-1領域に結合し、細胞周期のとくに初期段階に作用するcfos/junなどの転写調節因子の発現を強力に誘導する。この注目すべき機能は、tax遺伝子を導入した、正常ヒト細胞株の形態転換及びin vivoの動物モデルとしてはリウマチに近いといわれているtax transgenic miceの成績からも明確にされた。一方、taxはrel familyの一つであるNF-Kβとして知られる細胞側の転写性化因子も活性化する。すなわち、taxはNF-Kβのenhancer elementを活性化させ滑膜細胞増殖の維持に関与するTNFα、IL-1β、GM-CSFなど種々のサイトカイン遺伝子の発現をupregulateする。すなわち、HTLV-1P40X領域は滑膜細胞の増殖の誘導及びその維持に関与するウイルス遺伝子である。一方、著明に増殖を維持した細胞は一定の条件下では、顕著なアポトーシスに陥ることも明らかにされた。 リウマチにおいて、滑膜作の増殖とその逆の現象である消退という、臨床上観察さ
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れているリウマチの臨床的活動性の特性の一つをアポトーシスというキーワードにより、明確にその実態が明らかにされ、分子機構からその特異な病態解明する突破口の一つが明らかにされた。 (3)env-P40X遺伝子による免疫応答の誘導 HTLV-1 env-P40X遺伝子をヒト滑膜細胞にtransfectionした細胞ではMHC-class II拘束性の存在も確立される一方、env蛋白を明らかに認識していると考えられる、T細胞の存在もTCRの解析を通じて明らかにしてきている。また、局所の免疫応答系の誘導にはenv領域がより強力であり、Tax領域は滑膜細胞の増殖に関与するものと考えられた。 さらに、現在我々のグループではtax遺伝子が病巣局所ではアポトーシスを誘導し、免疫応答の中枢ではアポトーシスを干渉しているという興味ある事実を捉えており、この点についてさらにTransgenic miceを用いて検討を進めている。 いずれにせよ、レトロウイルス粒子は最小限の遺伝情報を担うRNAからなる遺伝子とそれを保護するenvから構成された分子集合体である。免疫系におけるウイルス感染症は今後こういった分子集合体-宿主細胞の関連性において捉える必要がある。 すなわち、従来の固定概念を打破し、分子集合体による自己免疫疾患の発現機構という視点に立って今後強力に推進する必要があろう。 (4)レトロウイルス誘導とその標的臓器への伝搬機構 レトロウイルスの感染者が発症するまでにはウイルスと宿主の間の多彩な因果関係が存在する。すなわち、ウイルスは特異的な細胞に感染後、増殖し、特異的組織へと個体内を伝搬していくが、臓器特異的自己免疫疾患の病因を解く鍵はまさにこの感染個体内で標的臓器への伝達プロセスの解明にある。この事は、現在社会的にも問題となっているHIV感染症からAIDS発症機構を解明する上でも大きな意味を与え、今後の重要課題である。 ここに4年間本研究の助成を受けて行ったリウマチの病因遺伝子の分子レベルでの研究は単にリウマチの病因解析と根治的な治療に遺伝子レベルから大きな突破口を開拓したのみならず、広く自己免疫疾患の成因を解く上でも、またレトロウイルス感染症とその標的組織での疫学的発症機構を解明する上で大きな意味を与えてきているものと確信する。 今後滑膜細胞を細胞生物学的な視点からみると、数多くの課題が残されているが、戦略目標を明確に把握し、その問題を具体的に解決するために、さらに強力に研究を推進したい。さらに現在、新たにflavi virusが新しいCandidateとして浮上してきた。この点に関しても現在国際研究チームを編成している。 2.滑膜細胞の増殖と細胞死の分子機構 (1)研究の背景 滑膜細胞の過剰な増殖とリンパ球の浸潤をきたし、その結果、骨破壊に至る難治性の疾患である。この滑膜細胞の過剰増殖の真の原因は未だ明らかではないが、本体は前腫瘍状態といえるもので、しばしば増殖と退縮を繰り返す。 RAの滑膜細胞自身も一部アポトーシスによる細胞死に陥っており、チューリッヒ大学、アラバマ大学との協同研究によって、その滑膜細胞死の形態学的分類を行った。また、Fas/FasLの分子間機構の解明にも検討を加えた。その結果、滑膜細胞の増殖と細胞死を支配しているのは、滑膜細胞の細胞周期であることが明らかになってきた。 現在さらに、テキサス大学ダラス校のP.E.Lipsky教授らのグループと共に、RAの過剰な増殖をしている滑膜細胞の性状を解析し、その増殖制御機構が明らかとなれば、病因解明のみならず、新たな治療法の開発につながり得ることをアポトーシス誘導の代表的分子であるFas及びそのリガンドであるFas-Lの系を用いてその一部を明らかにしている。 (2)研究成果とその意義 OAすなわちRA患者由来滑膜細胞に選択的にFas依存性アポトーシスが誘導されることから、RA滑膜細胞に特異的なFas依存性アポトーシスの細胞内シグナル伝達機構の存在が考えられた。事実、抗Fas抗体刺激によりRA滑膜細胞内では、セリンリン酸化酵素JNKが選択的に活性化され、その下流の遺伝子転写活性化因子AP-1の増加が認められた。 Fas抗原を介したアポトーシスのシグナルはJNK/AP-1を活性化しDNA断片化に関与するエンドヌクレアーゼを誘導すると推定された。ところが、RA滑膜組織内にはFasリガンドを発現している浸潤リンパ球は存在するが、過剰な滑膜細胞を除去できるほど十分なアポトーシスは認められず、また、OAに比しRA関節液中には可溶性Fas抗原が有意に増加していることから、RA滑膜細胞の増殖にはアポトーシスによる調節機構の障害が関与する可能性が示唆された。また、このプロセスにおいてTNFαが決定的に重要な役割を担っていることも明らかにしてきた。増殖しているRA滑膜細胞に対して積極的にアポトーシスを誘導できれば新たな治療につながると考えて、HTLV-1トランスジェニックマウスのRA様関節炎に対し、抗Fas抗体を関節内投与すると関節の腫脹が著明に改善され、組織学的にも増殖滑膜細胞の消失が確認された。したがって、抗Fas抗体による病的滑膜細胞へのアポトーシス誘導及びFasL遺伝子導入細胞によって、RAに対する強力な治療手段となり得ると考え、現在臨床適応を目指している。 隠す
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