研究概要 |
アルギニンは必須アミノ酸の一種であり、全ての生物がアルギニンを合成する酵素系を持っている。これまで大腸菌のアルギニン合成系酵素遺伝子群がクローン化され、解析されてきた。大腸菌ではグルタミン酸をアレルギニンに変換させるために8種類の酵素が関系していることが明らかにされている。また遺伝子群としては2ヶ所にマップされ、それらの発現はいずれもargR遺伝子産物によって支配されていることが報告されている。 本研究では酵素生産菌として産業的に利用されているBacillus amyloliquefaciensにおけるアルギニン合成系酵素遺伝子について解析し、生物による遺伝子の構成や発現制御機構の作異や保存性を解析し、アルギニン生産に役立てることを目的とした。 平成6年度には下記の日程で三回大韓民国ソウル市Sookmyung Women's UniversityのMin教授の研究室を訪問し、共同研究を行った。 第一回目はBacillus amyloliquefaciensおよび他の細菌から染色体DNAを抽出・精製した。B.amyloliquefaciensおよび他の細菌を3時間37℃で培養し、栄養増殖期にある細胞を調製した後、リゾチーム,EDTA処理によって細胞壁をとかし、細胞を破壊した。その後フェノールpH9法によってDNAを抽出し、RNaseによってRNA部分を分解し、染色体DNAを純化精製した。この時にDNA一般の取り扱い方法について解説し、また今後の研究全般にわたる方進について相談した。 第二回目は第一回目の訪問の後に多量の染色体DNAを調製してもらっていたので、それを材料として以下の実験を行った。 1)制限酵素による染色体DNAの断片と部分分解。染色体DNA(約10μg)を取って、制限酵素EcoRI、BglII等による切断と制限酵素HindIIIによる部分分解を行った後、アガロースゲル電気泳動で分離した。HindIII部分分解物については2〜5kbと5kb以上の二つの画分に分けて分離精製した。DNA断片の分離にはDE81イオンクロマトグラフィーロ紙を使用した。一方ベクターとして利用する予定のプラスミドを大腸菌より抽出・精製した。 第三回目の訪問では切断したHindIIIで切断したベクター(pBCue script)と二回目の訪問の後に多量に調製したB.amyloliquefaciens染色体DNAのHindIII部分分解物をLigation Kitを使用して連結させ、大腸菌DHαおよびJM109株に形質転換させた。JM109は市販コンピテント細胞を、またDHαはMin教授研究室でカルシュウム・ルビジュム法によってコンピテント細胞を調製したものを使用した。ベタタ-のみを使用してコンピテント細胞の形質転換能を調べたところ、理論値どおりであったので、次に染色体DNAと連結させたものについて形質転換実験を行ったところ、形質転換株の発現は少かった。 この一年を通して組換えDNAの基本的問題について実験したが、まだアルギニン合成系遺伝子をクローン化することには成功していない。染色体DNAの抽出・精製,制限酵素切断と切断されたDNAの抽出方法、ベクターDNAとの連結実験,および大腸菌への形質転換実験を行っているが基本的技術がまだ充分ではなく、さらにこれらの実験をくり返して行うことによってアルギニン合成系遺伝子をクローン化することを目指すこととした。
|