研究概要 |
この研究計画では,原子核の変形,特に基底状態近くの低い励起エネルギー領域での変形に関わる新しい問題や残っている問題について考えてきた。 中心的課題として取組んできたのは,原子核の非軸対称変形である。これはガンマ不安定変形とも呼ばれ,色々未知の側面を持つ。ケルン大学のグループでは実験的立場から,又,東京大学のグループは理論,特に,「相互作用するボゾン模型」の立場からこの問題に取り組んで来た。ケルン大学のグループでは,非軸対称変形を記述する二つの理論的考え方,ガンマ不安定回転と三軸非対称静的変形,の内で実験的には前者の方が適当と考えられる,という結論を出した。それと,矛盾しない結論を,東京大学のグループでは,微視的な基礎に立った相互作用するボゾン模型によって示し,両者の間で十分討論などをして確認した。その成果の一部は,Siems他によって出版され,東京大学の大塚も共著者として入っていて,現在も研究中である。 このガンマ不安定回転の研究の中で,東京大学とケルン大学のグループが共同して研究しつつ到達したのが,この運動モードは実際には回転ではなくて,振動である,というものである。この研究には,東京大学側からは代表者の大塚と,研究協力者で大学院学生の金が関わっている。大塚-金による論文の成果を受けて,8〜9月にケルン大学を訪問して,大いにその後の研究を推めた。さらに、E2遷移についてのある定理を東京大学の大塚と金によって見出し,その実験的検証に,ケルン大学のグループが共同してあたった。そのため,特に協力してくれた研究者一名がその論文の著者として含まれている。 8〜9月の訪問により,偶々核の基底状態からのE2励起の普遍的性質について共同研究を行ったが,それの成果は11月に出版されたPietralla他による論文に反映されており,東京大学の大塚が共著者として入っている。 9月には東京大学の水崎がケルン大学を訪れ,上述の振動理論についての研究に参加するとともに,回転減衰現象を相互作用するボゾン模型により研究した。その結果,崩壊パターンや幅について,量子カオスとも関連づけて議論できて,大いに成果があがった。その結果は論文としてまとめられ,現在,投稿準備中である。 9月には日本原子力研究所の杉田もケルン大学を訪問した。行った研究は,原子核の八重極変形に基因するE1(電気的双極子)遷移に関するものである。相互作用するボゾン模型に,E1巨大共鳴を表わす,ヤボゾンと,八重極変形を表わすfボゾンを加える事により,E1遷移についての新しいアプローチを開発し,重い原子核での四重極-八重極変形の新しい方法論として多くの原子核への応用を東京大学-ケルン大学共同で行っている。 11月には,大塚と吉田(関西大学)がケルンを訪れた。大塚は,ガンマ不安定変形核の振動モードについて引続いて共同研究した。この理論は,Qフォノン理論と名づけられ,共同研究の中心的テーマとなった。11月に主に行った研究は,Qフォノンについて,奇スピン状態の生成がそれによって可能かどうか,というものであり,その成果はその後論文として投稿され,既に投稿が認められている。吉田は,奇質量数のXe及びCs原子核について,ケルン大学のグループと共同研究を行った。その結果は,現在論文にまとめている。 3月に,大塚と吉田はケルン大学を訪問し,それぞれ,Qフォオン理論と,奇質量数Xe-Cs核の構造について,共同研究を進める。前者については,IBM-2という,陽子と中性子の自由度の入った相互作用するボゾン模型による研究が主眼で,後者はこれまでの研究成果のまとめが主な目的である。 以上のように,共同研究は大変順調に進展し,多くの成果が得られた。現在も共同研究そのものは発展中である。特にPdアイソトープについての,M1遷移に注目しての研究は近々完成予定である。
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