研究課題/領域番号 |
06044250
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
唐木 英明 東京大学, 農学部, 教授 (60011912)
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研究分担者 |
張 基哲 慶尚大学, 医科大学校, 副教授
斉藤 みの里 東京大学, 農学部, 助手 (70192359)
尾崎 博 東京大学, 農学部, 助教授 (30134505)
CHANG K.c. Gyoongsang National University, Asociate Professor
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研究期間 (年度) |
1994
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研究課題ステータス |
完了 (1994年度)
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キーワード | Cardiac Muscle / Aorta / Isoquinoline / Blood pressure |
研究概要 |
心筋ならびに平滑筋の収縮は細胞内Ca濃度の変化により制御されていると考えられている。すなわち、細胞内Ca濃度が上昇するとアクトミオシンが活性化して収縮し、逆に細胞内Ca濃度が低下すると筋は弛緩する。細胞内Ca濃度の上昇には、細胞外からのCa流入と細胞内貯蔵部位からの遊離とが関与すると言われている。しかし、近年、これらの一連の基本的反応に多くの2次メッセンジャーが介在して、これらの反応機構をより複雑なものにしていることが明らかにされつつある。一方、生物学の歴史を振り返ると、このような複雑な生体反応の機構を明らかにする上で、特異的阻害剤はきわめて有用な手段となる。そのような特異的阻害的阻害剤を目的として、各種のイソキノリン誘導体、たとえばカルモジュリン阻害剤であるW7、Cキナーゼ阻害剤であるH7、カルモジュリンキナーゼII阻害剤であるKN-62などが合成され、実際に多くの研究に使用されてきた。本研究は大韓民国慶尚大学医学部の張博士との共同研究により、1)各種のイソキノリン誘導体の中から有用な化合物を検索し、その作用点を特定し、今後の生物学研究に資する化合物を開発する、2)実際にこれを筋科学の分野に応用し、心筋と平滑筋の収縮機構の差異を明らかにして行くこと、を目指している。 本年度は、イソキノリン誘導体の中で、HA-1077、H-7、YS-49、GS-283、GS-386、GS-389、higenamineを取り上げ、以下の成績を得た。 (実験方法) 実験動物としてはラットを用い、胸部大動脈ならびに右心耳を摘出した。収縮張力は等尺性に記録し、細胞内Ca濃度は蛍光指示薬fura-2を用いて測定した。また、α毒素を処置することにより、平滑筋細胞に小孔をあけ脱膜化標本を作成し、収縮蛋白系に対する作用を検討した。 (実験結果) 1.ラット大動脈において、HA-1077とH-7はともに高濃度Kによる細胞内Ca濃度の上昇と収縮を抑制したが、細胞内Ca濃度の抑制に比べ、収縮張力の抑制効果が強かった。Verapamilを作用させ、細胞内Ca濃度の上昇をなくしてもノルエピネフリンは持続性の収縮を発生させるが、HA-1077とH-7はともにこの収縮を抑制した。以上の成績はこれらのイソキノリン誘導体が収縮蛋白系のCa感受性を低下させる作用を持つことを示している。 2.α毒素スキンドファイバーにおいては、微量のCa(0.3μM)で収縮が発生する。HA-1077はこのCa収縮を抑制したことから、HA-1077が収縮蛋白系に直接作用することが明らかとなった。 3.張博士により新たに合成されたGS-283、GS-386、GS-389も、いずれも高濃度Kならびにフェニレフリン収縮を同程度に抑制した。抑制作用の強さは、HA-1077、H-7と同じであった。これに対してhigenamineはフェニレフリン収縮に対して強い特異性を示した。 4.YS-49を取り上げ、ラット心筋収縮に対する作用の検討を行った。YS-49は心筋の拍動を速め、収縮張力を増加した。これらの作用はβ遮断薬により一部抑制された。 次年度は、GS-283、GS-386、GS-389、higenamineの血管平滑筋に対する作用機序をさらに詳細に検討すること、ならびに現在合成を進めている新たなイソキノリン誘導体の作用も検討する予定でいる。特に、Higenamineの血管平滑筋に対する作用は、cAMPやcGMPレベルとの関連を検討する予定でいる。さらに、本研究によりHA-1077とH-7が収縮蛋白系に対して直接作用をもたらすことが明らかとなったが、その作用点を生化学的に明らかにすることも今後の重要な課題となろう。
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