研究概要 |
韓半島南部には慶尚層群と呼ばれる白亜紀の非海成砕屑岩類(一部は火山岩)が広く分布する。平成6年11月および平成7年3月の2回にわたって慶尚層群分布域およびその周辺の先白亜紀基盤岩類の地質調査を行い,採取した岩石試料の検討から以下のことが明らかとなった。 (1).慶尚層群分布域の最北部にあたるヨンヤン地域(Yongyang Basin)には,先カンブリア紀の変成岩類や花崗岩類を不整合に覆って,礫岩・砂岩・赤色シルト岩が広く分布する。礫岩には花崗岩・花崗片麻岩・コ-ツァイト・石灰岩・砂岩の円礫〜亜円礫が普遍的に存在するが,部分的にチャート礫が密集する層準が存在する。チャート礫は通常1〜3cm大の亜角礫から円礫であるが,礫径が10cmを越えるものも存在する。その色は赤褐色・黒・白・緑灰色など様々であるが赤褐色のものが多い。赤褐色チャート礫の中には,ひじょうに保存状態の良好な古生代二畳紀の放散虫化石を含むものが存在する。放散虫化石の大半はFollicucullus属のもので,Follicucullus scholasticus,Follicucullus monacanthus,Pseudoalbaillella sp.など二畳紀後期の時代を示す。 (2).上記礫岩の基質をなす灰白色〜赤褐色の中粒〜粗粒石英長石質砂岩には,石英・カリ長石・斜長石のほかに,電気石・ジルコン・モナザイト・磁鉄鉱などの重鉱物が含まれる。砕屑性モナザイトのCHIME年代は,主に中期先カンブリア時代(約1500Ma)と古生代末(約250Ma)であった。 (3).慶尚層群分布域のほぼ中心部にあたるテグ付近の白亜紀礫岩には,礫径が5cm〜30cm大の花崗岩および花崗片麻岩礫が大量に含まれる。多数礫の一つである黒雲母-斜長石-カリ長石-石英花崗片麻岩中のモナザイトには,まれにその周辺をアパタイトで取り囲まれたものいが存在する。モナザイトのCHIME年代は約1300〜1200Maであるが,部分的に約700〜800Maおよび250Maの年代を示す部分が存在する。このアパタイトを伴うモナザイトについては,現在,詳細に検討中である。 (4).チュンジュ南東に分布する沃川帯の黒色片岩〜黒色スレートには,数cm〜80cm大のコ-ツァイト・花崗岩・石灰岩などの礫が含まれる。花崗岩礫中のモナザイトは1450MaのCHIME年代を示し,この花崗岩が沃川帯近傍の原生代花崗岩や片麻岩からなる後背地から由来したことを強く示唆する。 (5).チュンジュダム付近の沃川帯は,主に緑色岩・ドロマイト質石灰岩・泥質岩起源の変成岩とそれらを貫く花崗岩からなる。緑色岩起源のザクロ石-エピド-ト-緑泥石-アクチノ閃石片岩には部分的にアナライトが含まれ,約250MaのCHIME年代を示す。この年代は,沃川帯のザクロ石-緑泥石片岩が古生代末から三畳紀初期の変成作用によって形成されたことを示すと考えられる。 今後は慶尚層群に対比できる西南日本内帯の手取層群との比較検討をより詳しくすすめ,白亜紀における東アジアの地史を明確にしたい。
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