研究概要 |
立体配置の明確に規制された対面型ポリフィリン2量体のビスコバルト錯体による酸素の4電子還元反応能を明かにする目的で、この錯体を炭素グラファイトに吸着させた電極を調整して、その酸素還元能を検討した。これまで、一部の対面型ボルフィリン2量体のビスコバルト錯体が酸素4電子還元を触媒することは知られていたが、よりポルフィリン中心間距離の小さいモデルでは、2つの金属サイトがより共同的に作用する可能性が高くなり、結果として還元効率の向上につながる可能性が期待された。そこで、まず1,2-Phenylene架橋したポルフィリン2量体のビスコバルト錯体を合成し、シリカゲルクロマトグラフィにより精製した。ポルフィリンのメゾ位に3種類の芳香族置換基を有する1,2-Phenylene架橋したポルフィリン2量体をクロロホルム中、酢酸コバルト(II)と加熱して、それぞれのビスコバルト錯体を調整した。これらの錯体を共同研究者であるPohang University of Science and TechnologyのKimoon Kim副教授の研究室に送付して、その電気化学的性質を詳しく検討した。1,2-Phenylene架橋のポルフィリン2量体のビスコバルト錯体をグラファイト上に吸着させ、酸素の電気化学的還元反応はRotating ring-disc電極で測定を行った。4-tolyl基を有する錯体の場合、0.1Nのトリフルオロ酢酸存在下で、大きなdisk電流が観察されたものの、ring電流はほとんど観測されず、酸素の還元過程において2電子還元生成物である過酸化水素が生成していないことがわかった。この錯体の酸素還元能は、従来の酸素4電子還元を行うことが知られている錯体の最高性能に近いことを見いだした。この反応のKoutecky Levich plotから還元反応に関与する電子数は3.8であることも明かとなり、事実上4電子還元反応が進行していることがわかった。一方、メゾ位に3,5-ditertbutylphenyl基を有するポルフィリン錯体の場合は、還元反応に関与する電子数は約2であり、ほとんど2電子還元しか進行せず、対応するポルフィリン単量体と同じ反応性しか示さない。さらに、電子吸引基である2,3,4,5,6-pentafluorophenyl基を有するポルフィリン錯体の場合は還元反応に関与する電子数は約2.7でと計算され、4電子還元と2電子還元の両方の経路が進行していることが示唆された。このように非常に高い酸素4電子還元触媒能を持つポルフィリン錯体を合成できたことおよびポルフィリン触媒錯体近傍のわずかな分子修飾により、酸素の電気化学的還元経路が大きく変化することをはじめて明かにした。 次に、より近傍したモデルとして、1,8-Naphthalene架橋ポルフィリン2量体のビスコバルト錯体を検討した。市販の1,8-Naphthalic Anhydrideから出発して、7段階で1,8-Naphthalene架橋ポルフィリン2量体の合成に成功した。最後のポルフィリン環化の収率は6%であった。H-NMRから2つのポルフィリンのプロトンは非常に大きな高磁場シフトを示しており、対面型配置に強く固定されていることがわかっている。現在、コバルトイオンのこのポルフィリン2量体への挿入を検討中である。
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