研究分担者 |
SUKHYAR Rade インドネシア火山調査所, 部長
TJETJEP Wimp インドネシア火山調査所, 所長
井口 正人 京都大学, 防災研究所, 助手 (60144391)
平林 順一 東京工業大学, 草津白根火山観測所, 助教授 (30114888)
鍵山 恒臣 東京大学, 地震研究所, 助教授 (50126025)
岡田 弘 北海道大学, 理学部, 助教授 (40000872)
石原 和弘 京都大学, 防災研究所, 助教授 (30027297)
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研究概要 |
1994年に相次いで噴火したインドネシアのスメル,リンジャニ及びバツールの3火山,更に,同年11月に火砕流によって死者65人が出たメラピ火山と地震が多発しているグントール火山の活動と災害について,インドネシア火山調査所のデータを収集すると共に同調査所の協力を得て現地調査・観測を行った.それらのデータの分析を行い,安山岩質火山の噴火の前兆現象及び溶岩ドーム崩落型火砕流の発生条件について,地球物理学的及び地球化学的側面から検討した. 1.メラピ火山の光波測量データの解析から,山頂直下の直下1〜2kmに小規模なマグマ溜りが存在することが推定された.この推論の妥当性を検証するため1994年10月に山頂から0.7kmの地点に傾斜計を設置したところ,11月22日の火砕流発生の約1週間前から山頂が隆起する傾斜変動が記録された.一方,同年7月と10月に採取した火山ガスの組成分析から,7月に比べ10月にはH_2Oがやや減少し,CO_2とH_2の濃度が明瞭に増加したことが分かった.また,山頂からのSO_2の放出量も火砕流発生の約1週間前から倍増していた.以上の観測調査結果は新たなマグマの上昇・貫入を強く示唆していて,11月22日の溶岩ドーム崩落型火砕流発生の前駆現象と考えられる. なお,インドネシア火山調査所は,低周波地震の発生等に基づき11月4日に注意報を住民に伝えたが,従来の活動前に比べ落石の発生頻度が小さく,活動が差し迫っているとは考えなかった.地震観測を過信したために,噴火予知に関する適切な判断がなされなかったという意味で教訓的である.メラピ火山の過去の観測資料及び雲仙普賢岳における研究成果と比較検討し,メラピ火山の活動の前駆現象についての研究成果を1995年10月にインドネシア国ジョクジャカルタで開催される「防災10年火山メラピワークショップ」で発表する予定である. 2.爆発的噴火を繰り返している安山岩質火山スメルの火山性地震・微動のスペクトル解析から,桜島火山と全く同じ地震の分類方法が適用できることが確かめられた.1994年2月の大規模噴火の前駆現象は,桜島と同様に,A型地震の増加→B型地震の増加→地震・微動の群発という経過を辿った.更に,それぞれの地震・微動の卓越周波数も桜島とほぼ同じであり,活動期のSO_2放出率もほぼ一致していることから,火道の形状及びマグマ中の揮発成分含有度が類似していると推定された. 3.バツール火山(休止期間:20年)では,噴火の約40日前から火山性地震の発生頻度が高まり,リンジャニ火山(休止期間:27年)では観測所設置と同時に火山性地震の発生頻度が高いことが確認され,数日後に噴火を開始した.両火山では適切な噴火予知情報が出された.両火山のマグマは桜島やスメル火山と違い,三宅島の溶岩に近い玄武岩質安山岩であり,B型地震の欠如など火山性地震・微動の種類や発生様式が桜島等とは多少異なる可能性がある.今後の共同研究によって明らかにする予定である. 4.グントール火山(噴火の休止期間:150年)に設置した4点地震観測網の記録を解析して,火山性地震の震源分布を調べた.その結果,山頂直下の5km以深では地震が発生していないことが分かった.同様に震源分布の特徴は,桜島,浅間山及メラピ火山でも認めれ,地下5km以深にマグマ溜りが存在する可能性を示唆している.今後は地震データの解析を継続すると共に地盤変動観測を実施して,同火山のマグマ供給システムの解明のための研究を推進する予定である. 本研究により,インドネシアとわが国の安山岩質火山の間には噴火の前駆現象やマグマ供給システムに類似点があることが確かめられ,メラピ型火砕流発生の前駆現象が地盤の傾斜観測と地球化学的測定によって捉えられた.本研究の目的である噴火様式と前兆現象の類型化,及び溶岩ドーム崩落型火砕流の発生条件解明のための貴重な知見が得られたといえる.
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