研究概要 |
本共同研究では,プロセス・シミュレータの基礎データを得ることを目的として,液体金属および合金の熱伝導度,比熱,放射率,表面張力および粘性係数の測定を行うこととし,日本側の熱伝導度,比熱おび放射率を担当することとした.ただし,本研究計画の採択が,平成6年12月であったので,本年度は,測定方法についての調査および予備実験を行うことを主な目的とし,また,これに関して英国側の研究者と討論した. 研究実績の概要は以下のとおりである. ◎熱伝導度の測定 このテーマは日英双方で担当することとし,英国側ではレーザ・フラッシュ法を,日本側では非定常熱線法を用いることとした. 非定常熱線法を液体金属のような導電性物質に適用する場合には,測定プローブを絶縁性物質で被覆する必要がある.さらに,精密な測定を行うためには,この被覆層が十分高い熱伝導度を有し,十分薄いことが要求される.そこでまず,これらの条件を満足する被覆物質およびその形成方法を検討した結果,被覆物質としてはアルミナが最適であり,合金の高温酸化を利用して形成できるとの結論に達した.そこで,プローブをAIを含有する合金とであるアルメルで作製し,それを空気中,960℃で10分間酸化した. このプローブでグリセリンおよびエチレン・グリコールを測定した結果,それぞれ,0.29〜0.31W/m・kおよび0.26〜0.27W/m・kの値を得,これらの値が文献値と概ね一致することから,基本的に測定が可能であることを確認した.現在,水銀の測定を行っているが,得られた測定値(13W/m・k)は,文献値(8.5W/m・k)と比較して大きく,対流の影響を受けていると考えられる.この点に関しては改善の余地がある. また,本法の液体金属への適用性に関して英国側の研究者と議論した結果,アルメルを酸化した場合,酸化膜にはアルミナ以外に,アルメルの成分であるNi,Co,Si,Mnの酸化物も含まれているために,高温の液体金属に適用する場合には金属に還元される酸化物もあり,絶縁性が維持できなくなる可能性があるとの指摘があった.この対策として,Alを固溶するPtをプローブ材として使用し,これを酸化してアルミナ単相の被覆層を形成することが提案され,今後実験することとした. ◎比熱の測定 高温における比熱の測定方法としては,落下型熱量計,ブンゼン型熱量計,断熱型熱量計,示差走査型熱量計,ホット・ストリップ法などがあるが,いずれの方法においても,高温部における液体金属の保持に関しては問題がある.今回の共同研究においては,試料をレビテーション法により溶解・保持し,熱量計に試料を投下するという新しいタイプの落下型熱量計が提案された.現在,この方法の実施の可能性について,さらに調査を進めている. ◎放射率の測定 放射率の測定法としては,試料からの放射光強度を測定し,同じ温度における黒体からの放射光強度と比較するという方法が一般的であり,本研究においてもこの方法を採用した.液体銅およびニッケルに関して測定を行ったところ,たとえば,波長800nmにおいては,それぞれ,0.10(1400℃)および0.31(1600℃)の値を得た. ただし,英国側研究者と議論した結果,赤外域においては放射強度が低下し,その強度の定量測定が不可能な場合もあるので,反射率を測定し放射率を決定する方法に関しても研究を進めたほうが良いとの結論に達した.これに関しては,今後実験を行う予定である.また,液体金属をセラミックス製のるつぼに保持した場合には,酸化やるつぼからの汚染をともない,これが放射率値に影響することがあるので,金属や非接触で保持できるコールド・クル-シブルの導入は必須であるとの指摘もあった.これに関しても検討を進めるこことした.
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