研究概要 |
本共同研究ではヒト染色体セントロメア領域に由来するアルフォイドDNAとマウス染色体セントロメア領域に由来するマイナ-サテライトDNAのそれぞれを数百キロベース単位でYACにクローン化し、これらの巨大DNA断片にヒト由来テロメア配列を選択マーカー等と一緒に組み込むヒトあるいはマウスの培養細胞に導入し独立の人工染色体として安定に維持できるクローンを得ることを目的としている。最終的には哺乳動物人工染色体(MAC)をYAC技術と酵母細胞内での組換えとを用いて開発することをめざしており、このような研究を通してセントロメアとテロメアを中心に哺乳動物染色体の構造と機能への理解がより深まるものと期待される。日本側では主にアルフォイドDNAとマイナ-サテライトDNAのYACへのクローン化と各クローンの構造解析を中心に行ない、英国側では主にそれぞれのYACクローンの末端を酵母細胞内相同組換えを利用してヒト由来テロメア配列で置換、YACDNAの増幅、単離、細胞への導入法の検討等を行なった。具体的には以下の通りである。 (1)ヒト21番染色体セントロメア領域を構成するα21-Iとα21-IIの巨大アルフォイドDNA領域をおおうYACクローンの単離作業を推進した。繰り返しDNAはYACにクローン化すると不安定で組換えや欠失が頻繁に起こることが宿主として組換え欠損株(rad51^-,rad52^-)を用いることでこの問題を克服し、α21-Iとα21-IIの領域由来DNAを挿入したYACクローンをそれぞれ複数個ずつ得ることに成功した。またヒト21番染色体コスミドライブラリーをスクリーニングし、α21-I,α21-IIのそれぞれのDNA配列を含む多数のクローンを得ることに成功した。α21-Iとα21-IIの中間部に位置すると考えられるクローンやそれぞれの配列の周辺部に位置すると考えられるクローンなども得られており、ヒト21番染色体セントロメア領域の連続的なDNA配列を明らかにすることも可能となった。(日本側) (2)我々のYACライブラリーはヒトではヒト/マウスの雑種細胞で21番染色体のみを含む細胞由来DNAを用いているのでマウスのマイナ-サテライトDNAとメジャーサテライトDNAを含むYACクローンもそれぞれ多数得ることに成功した。このようなYACクローンもヒトアルフォイドYACクローンとともに比較解析することにより哺乳動物染色体セントロメアの機能構造解明に重要な知見をもたらす(日本側)。 (3)YACテロメア改変ベクターと酵母細胞内での組換えを利用してアルフォイドYACクローンとマイナ-サテライトYACクローンの末端をヒト由来テロメア配列で置換した。その結果末端配列の置換には成功したがYACの挿入配列内に組換えや欠失も高頻度でおこることが判明した(英国側)。そこで元のYACの挿入配列を完全に残したクローンを選択するとともに、日本側ではこのような酵母内での組換えとは別にin vitroで各YACクローンの末端配列を置き換え再度組換え欠損株(rad51^-,rad52^-)に導入し、安定に末端を置換する方法を採用し、新たに研究を開始した。 (4)YAC DNAの大量調整、濃縮法を検討した結果、十分量のDNAが切断されることなく回収できた。そこでこのYAC DNAを顕微注入しリポフェクチン法をそれぞれ用いて動物細胞に導入する方法を検討した。その結果顕微注入法、リポフェクチン法ともにYAC DNAの導入に十分有効であることが判明した。顕微注入では大量の数をこなすことは難しいが、導入した細胞1つ1つを克明に観察できる利点がある。また、リポフェクチン法では十分量をこなせるが選択をする必要がある。状況に応じて使い分ける必要があるだろう。また、細胞株によりテロメア配列を伸長させるテロメアーゼ活性が大幅に異なることが判明した。導入YAC DNAを安定に保持させるためにはセントロメア機能を具えたDNA配列であることとともに細胞のテロメアーゼ活性も重要な因子である。今後はテロメアアーゼ活性の高いHeLa系の細胞を宿主として用いることも本研究の推進には必須である。(英国側) 今後は得られた各YACクローンの細胞内での機能検定を中心に研究を展開し、セントロメアとこの機能配列の限定をはかるとともに、ヒト人工染色体構築に向けて研究を進めていく予定である。
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