研究概要 |
黄道光の地上観測が最近少なくなった一因として、暗い対象に対する観測手段の遅れが挙げられる。一方、黄道光を散乱する惑星間塵雲の構造と進化に関する研究は、惑星間飛翔体による直接測定の実施によって、飛躍的に進展している。特に、最近のユリシ-ズやガリレオといった探査機による星間塵侵入の検出や、塵雲の空間分布に対する新しい知見の報告は、惑星間塵雲を新しい視点から再検討する契機を与えている。 我々は、黄道光に新しい観測を加える一方で、最新の塵雲モデルとの比較検討によって、惑星間塵雲の構造を調べようとしている。このため、(i)冷却CCDカメラと、ファブリペロ-型干渉分光器を開発し、これを用いて、地上からの黄道光観測にとっては最適地であるハワイ・ハレヤカラ観測所において、黄道光のドプラーシフトを測定する。この装置の測定感度は、従来のものよりも50倍高いことが期待されている。更に、(ii)惑星間塵に関する最新の情報を取り入れた塵雲モデルを構築し、これに基づいてドプラーシフトの観測データを解析する。これによって、塵雲の速度分布(軌道分布)を導き、塵雲の起源と空間構造を明らかにする計画である。 平成6年度国際学術研究-共同研究事業として、平成7年3月14日から22日にかけて、研究代表者(向井)と、研究協力者(渡邊)とは、英国マンチェスター大学シャスター研究所にJohn James氏を訪問し、上記(i),(ii)の研究計画を実施した。今回の訪問の主目的は、James氏が開発したファブリペロ-型分光器と冷却CCDカメラの光学系を組み立てると共に、その精度測定を実施することであった。 液体窒素で冷却したCCDカメラを、フィルター(中心波長5183A、バンド幅20A;太陽フラウンフォファー線のMgI tripletに対応)、レンズ系、ファブリペロ-型分光器から成る光学機器に接続し、減光フィルターを付けて大気光及びZnランプの干渉縞を測定した。後者の測定結果は、レファレンスラインとして用いる。これらの結果をパーソナルコンピュータに取り入れ、処理ソフトの動作をチェックし、その取り扱いを練習した。これらの測定結果によって、冷却CCDカメラが期待どおりの測定精度を与えることが分かった。ただ、レンズ系の鏡筒部分の長さが、新しいカメラの接続状態で不都合があることが分かり、マンチェスター大学のシャスター研究所の工作所で修正加工することになった。今回の訪問、滞在によって、測定機器の取り扱いに習熟し、黄道光観測を円滑に実施する目処がたった。解析用のソフトと、測定画像データは神戸に持ち帰り、神戸大学のコンピューター上で解析が行えるようにする予定である。 一方、平成7年8月から9月にかけてハワイ・ハレヤカラ観測所で行う黄道光ドプラーシフト観測計画の詳細についても、打ち合わせを行なった。8月26日と9月25日の新月を含む6週間で、夕方24回、朝方24回、朝夕同時5回の測定機会が予定されている。この時期のハレヤカラ観測所の晴天確立からほぼこの観測機会が達成されよう。観測は鏡筒を水平線上12度以上に向け、黄道光を3度x7度の視野で10分露出で撮影する。レファレンスラインの測定との組み合わせから、視野方向を変えつつ一時間で4回の観測を実施する。これによって、太陽離角30度から100度近傍までの黄道面上及びその両側における黄道光のドプラーシフト量が得られる。 黄道光の輝度分布の測定や偏光観測の可能性についても検討を加えた。これらの事項はそれぞれに検討を加え、4月中旬に英国側の共同研究事業の一環としてJames氏が神戸大学を訪問する際に最終的な結論を出すことにした。本年夏期のハワイにおける観測実施が待たれる。
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