平成6年度は、Gerhard Struck教授が作成したTopoikatalogの中でも禁反言(平成5年度に研究)以外の、信義則と関連の深い法的トポス(法命題)や、適用に当たって考慮しなければならない具体的諸要素(メタルール)の論理分析までは出来なかったが、それら個別的法命題に基づく法的推論過程の論理流図をそれぞれ作成し、さらにメタルールの抽出を行った。▼1.[法は正当なことを味方にする」という法的トポスは「訴訟上の法律状態の悪意的創出の禁止」という民事訴訟における信義則の個別的法命題と関係している。この法命題は「法律の迂回」とも呼ばれているが、(1)構成要件の回避と(2)構成要件の騙取に分類される。そこで、それぞれに分かれて法的推論が行われている様子を論理流図で示した。さらにこの個別的法命題に基づく法的推論過程を制御するメタルールを抽出した。▼2.「失権」という法的トポスも、民事訴訟における信義則の個別的法命題の一つと言われているが、最高裁判決の判示した要件に基づき法的推論過程の論理流図を作成した。そして同時に、失効の原則に基づく法的推論過程を制御するメタルールも抽出した。▼3.[シカ-ネ禁止」という法的トポスは「権利濫用法理」の最も明白な場合であり、この法理の古典的形態であるといわれているが、民事訴訟において権利濫用の法理は信義則の個別的法命題の一つと見られている。まず権利濫用法理に基づく法的推論過程の論理流図を作成し、さらにその推論を制御するメタルールを抽出した。 以上、信義則の個別的法命題は法的トポスと呼ばれているものであり、法規範の硬直した適用・思慮を欠く適用に対して指針的役割を果たし同時に、より高次のメタルールによって制御されていることが分かった。今後は具体的事例で、どのようにそれらが機能するのかを明らかにし、法律知識ベース構築に貢献して行きたい。
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