研究概要 |
本研究では血管壁をはじめとする生体軟組織の表面近傍の局所弾性率をピペット吸引によって同定する方法を開発し,これを使って動脈血管壁の弾性率分布を測定した.ここで開発したピペット吸引法では,内径がサブミリレベルのピペットの先端を測定対象の表面に接触させて中の圧力を減じて試料の一部を吸い上げ,その際の吸引圧力と最大変位量の関係を数値シミュレーション結果と比較することで試料の表面近傍の弾性率を同定する.本年度は,前年度行った測定法の基礎的な検討を発展させ,測定対象が異方性を持つ場合の測定方法を検討し,また,実際の血管壁の測定を数多く行った. 有限要素法による数値計算では,異方性を持つ試料に対して,通常の円形断面のピペットを利用した場合の測定結果の予測を行い,さらに,矩形断面を持つピペットを利用して特定の方向の弾性率の影響のみを選択的に捉える方法についても検討した.この方法を利用して,一つの面内で等方性である特殊な異方性材料については弾性率を同定できることを確かめた. 実際の血管壁を対象とした測定実験として,内半径0.04mmの円形断面のピペットを使ってウシ大動脈の弾性率の血管壁の厚さ方向分布を求めた.その結果,どの方向の弾性率も断面の内側ほど大きな値を示すことがわかった.ブタの胸部大動脈についてもウシの場合と同じように,弾性率の壁の厚さ方向の分布を求めた.ブタではウシとは異なり,弾性率分布は壁厚方向にほぼ一定となった.
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