今年度は、主としてイヌ膝関節を対象とした関節の起動摩擦(最大静止摩擦)測定を行った。動摩擦と静摩擦について教科書レベルでは、最大静止摩擦すなわち運動開始時の起動摩擦は、運動中の摩擦すなわち動摩擦より大きいとされている。また、関節の摩擦が、荷重時間に依存して変化するという結果が、従来報告されている。こうした観点から、動摩擦より大きな起動摩擦の存在が予想される。しかし、従来、それを明確に測定した報告はない。起動摩擦は短時間の現象であるため測定が困難であったのが、その理由である。本研究では、ロボットアームの動作により運動と静止の条件を精度よく再現させることにより、起動摩擦の検出を試みた。最初に、シーケンシャル制御で、摩擦面の検索を行った。すなわち、ロボットの末端効果器を垂直方向に動作させて、摩擦面が接触した位置を力覚センサで認識し、末端効果器に検索した順序の番号を付してロボットのコントロールボックスにある記憶装置に格納する作業を行った。全すべり距離を3mm、荷重を10Nとした。次に、記憶された番号に沿ってロボットを動作させ、末端効果器を摩擦面に沿って運動させた。1.5mm摩擦した地点で0〜100sの間で設定した時間、静止させ、その後、1.mm摩擦した。検索段階と測定段階のいずれも脛骨側に固定された6軸力センサでセンシングして、DIOボードを介してパーソナルコンピュータに入力した。予備実験として、まず高密度ポリエチレン/鋼の摩擦を測定した。その結果、無潤滑で摩擦した場合、起動摩擦は、動摩擦より1割程度大きい事がわかった。次に、イヌ膝関節について測定した結果、起動摩擦は、静止して荷重を加えた時間に大きく依存して変化することがわかった。たとえば、100秒間の静止では、摩擦係数が0.1を越えることがわかり、静止荷重が、関節の潤滑メカニズムに大きな変化を及ぼすことがわかった。
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