研究概要 |
形態や材料物性などの個体別の特性に対応できるように,要因レベルの力学現象から肺呼吸系と肺循環系が連成した力学モデルを構築した.その連成モデルを用いたシミュレーションを通じて肺呼吸システムの解明を試みた.また,その臨床応用へのアプローチとして人口呼吸時の吸入圧力の影響について検討した結果,以下の成果を得た. 1.これまでに報告されているヒト肺およびネコ肺の形態と材料定数に基づいて,自然呼吸時の肺循環シミュレーションを行った.得られた肺動脈部の血圧波形をフーリエ変換して各周波数成分に対する肺循環系の入力インピーダンスを求めた結果,実験で観察されるように,弾性血管内の脈波の伝播と分岐部における反射により,入力インピーダンスは周波数成分に依存することが示され,ヒト肺とネコ肺のインピーダンス特性の相違が定量的によく再現された.このことから,要因レベルから構築した力学モデルでは,モデル自体を変更することなく,形態や材料パラメタを適切に選ぶことにより,種々の個体別の特性を表現できることがわかった. 2.ヒト肺の人口呼吸時を想定し,吸入ガス圧力として口腔内圧を変動させたときのシミュレーションを行い,肺動脈部,肺胞毛細血管部,および肺静脈部における血圧波形および各心拍あたりの平均血流量を調べた.その結果,自然呼吸時に比べ人口呼吸時の血圧は,呼気時に高血圧側,呼気時初期に底血圧側に移行し,吸収したガス圧力の影響が顕著に現れることがわかった.また,自然呼吸時では肺動脈部に各心拍あたりの血流量の変動がみられるが,肺胞毛細血管部では安定し,人口呼吸時では各心拍あたりの血流量の変化が肺胞毛細血管部にも現れることが示された.人工呼吸において最適なガス交換状態を実現するためには,このような血流特性も同時に評価する必要があることが示唆された.
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