研究概要 |
超臨界キセノン中のアントラセンのイオン化ポテンシャルのキセノン密度依存性がクラスターモデルでよく記述できることがこれまでの我々の研究から明らかとなったので,本年度は,(1)クラスターモデルがどの程度高い密度まで成り立つか,を探るため液体キセノン中での測定を行った。また,(2)クラスターモデルの「万能性」を調べるため超臨界エタン中のアントラセンの光イオン化量子効率の電場依存性を測定し,オンサーガ-の解析を行った。 (1)まず本年度科学研究費で作成したクライオスタットで190Kまで温度を下げ,従来我々が超臨界キセノンで到達していた密度の2.6倍の13.1×10^<21>cm^<-3>までの密度で液体キセノン中のアントラセンのイオン化ポテンシャルを測定した。その結果この密度でもクラスターモデルはイオン化ポテンシャルを忠実に再現できることが初めて明らかとなった。 (2)超臨界エタン中のアントラセンの光イオン化量子効率の電場依存性を測定し,オンサーガ-の解析を行った。量子効率を求めるためには入射光強度を高い精度で測定する必要があり,アントラセンの発光を利用する方法を試みた.このために本年度の経費で備品として購入した水銀ランプを用いた。この方法で前年度のデータを再検討し,最終的に確認した値をもとにオンサーガ-の解析を行った。その結果,温度280K〜298Kの液体で温度を上げて電子移動度を大きくすると,実験値はオンサーガ-の理論から小さい方向に系統的なずれを示した。クラスターモデルによればこのずれは局所密度の増大を表すので,ずれの大きさから局所密度を見積もったところ,エタンの局所密度は液体領域ですでにバルク密度の2倍を越えることが分かった。色素のスペクトルによる他の研究者の報告ではこの比が2となるのは臨界密度の1/2付近であるとされており,エタンでなぜこのような結果が出たのか,未解決の問題として興味深い。
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