分子磁性体の実現には、常磁性化学種間で強い磁気的相互作用をもつ多次元ネットワークの構築が不可欠である。多次元ネットワークの創る系に、有機伝導体としてしられる一群の有機ラジカルがある。本研究では、有機ラジカルTCNQ(テトラシアノ-p-キノジメタン)と金属錯体からなる複合電子系を合成し、錯体の構造および有機ラジカルと金属との磁気的相互作用について次のことを明らかにした。 [M(salen)(TCNQ)_n](M:Mn(III)or Fe(II)、salen:N_4O_2シッフ塩基配位子) 中心金属である金属イオンは平面方向からN_4O_2シッフ塩基が軸方向からTCNQが配位した6配位構造を持ち、Mn(III)を中心金属イオンとする錯体の結晶においては[Mn(salen)]^+がTCNQにより架橋された一次元構造をもつ。さらに、TCNQの分子内結合距離およびIRスペクトルより、非常に珍しい酸価状態のジアニオンであることがわかった。鉄錯体の構造は決定できなかった。磁化率の温度変化の測定により、金属イオン間にTCNQ分子をつうじた磁気的相互作用はない。 [Cu(tpa)(TCNQ)_2] 中心金属に銅(I)イオンをもつTCNQ錯体を合成した。構造解析に適した結晶は得られなかったが、赤外スペクトルよりTCNQはモノアニオンで銅イオンに配位していると考えられる。また、配位子のつくる結晶場は三方両錐であり、配位したTCNQ分子の方向に磁気的軌道は向いている。磁化率測定の結果、銅イオンとTCNQラジカルの間にはかなり強い反強磁性的相互作用が働くことが明らかとなった。がカラムをなし、そのカラムをFe(III)錯体がつなぐ二次元ネットワーク構造をもつ。磁化率測定の結果、 本研究により、TCNQと高スピンFe(II)・Mn(III)との錯体において、常磁性金属錯体を有機ラジカルのネットワークに組み込むことに成功したが、期待された、有機ラジカルをとうした金属イオン間の相互作用は得られなかった。しかしながら、銅イオンとの錯体では、銅イオンとラジカル配位子との間に強い磁気的相互作用が発現した。今後、銅イオンをもちいた幅広い物資探索が必要である。
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