研究概要 |
本研究では量子化学計算に基づく理論化学的手法を用いて、強磁性や反強磁性といった特異な磁性相関を示す有機分子材料の電子状態の解明を行ない、さらにこのような分子材料の分子設計・反応設計に向けての理論的指針を与えることを目的とした。その研究実績の概要は以下のようである。 (1)1次元系における有機強磁性体を調べるために、m-フェニレン結合ユニットを介したラジカル中心間の磁気的相互作用を分子軌道法および結晶軌道法に基づいて考察した。2量体モデルについての半経験的分子軌道計算では、m-フェニレン結合ユニットを介したC-H,N,N-Oのようなラジカル中心間の交換積分は、非制限ハートレー・フォック法および配置間相互作用を考慮した方法のいずれにおいても正の値となり、強磁性的となることが分った。 (2)3回対称軸を持ち、非ケクレ型である1,3,5-トリメチルベンゼン(TMB)および1,3,5-トリアミノベンゼン3カチオン(TAB^+)について、非経験的分子軌道法によるその電子状態解析を行った。TMBおよびTAB^+の双方において、D_<3h>対称性を持つ4重項が基底状態となることが分った。 (3)4種類のジフェニルアミン誘導体(ジフェニルアミン、ジフェニルアミニウム、ジフェニルアミニルおよびジフェニルニトロキシド)は、しばしば強磁性高分子のスピン収容体部分としてその分子設計に用いられるが、これらの電子状態について、STO-3Gおよび6-31Gレベルにおける制限ハートレー・フォック法、非制限ハートレー・フォック法、および制限開殻ハートレー・フォック法による計算を実施して考察した。これにより、これらの誘導体の最適核配置が明らかになった。これは今後の強磁性高分子の分子設計にとって有用であると考えられる。
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