本研究ではジボランとルイス塩基の反応メカニズムについて、またカルベン類の反応性および反応メカニズムについて非経験的分子軌道法を用いて研究した。 A.ジボランとルイス塩基の反応メカニズム:ジボランと4つのルイス塩基(NH_3、PH_3、H_2O、H_2S)によるH_2B=XH_<n-1>生成反応のポテンシャル面の計算を行ない、ルイス塩基の種類による反応ポテンシャルの特質とその分類を行った。その結果、錯体生成の反応におけるエネルギー障壁はルイス塩基のプロトン親和力により決まることを明らかした。また水素脱離の反応過程では、1、2-水素脱離反応のエネルギー障壁は1、3-水素脱離の反応障壁より必ず高い。PH_3の反応系においては1、3-水素脱離ではH_2B=PH_2を生成せず、1、2-水素脱離のみで生成する。また、Gibbs自由エネルギーの計算ではNH_3及びH_2Oの系では1、2-水素脱離より1、3-水素脱離で反応が進行し、H_2Sの系では1、2-水素脱離で反応が進行することが明らかになった。また、PH_3の系における1、2-水素脱離、1、3-水素脱離の比較においても同様に1、3-水素脱離より、1、2-水素脱離の方がより反応が起こりやすいことを示した。 B.カルベン類のオレフィンへの付加反応:カルベン類(XR_2:X=C、Si、Ge、Sn;R=H、F)のエチレンの二重結合への付加反応メカニズムについて、反応は求電子ステップと求核ステップの2段で起こる。最初のステップでR_2X^--CH_2-CH_2^+型の付加生成物で、次がX-C結合生成である。最初のステップではカルベン類(X)及び置換基による差は非常に少ない。カルベン類(X)及び置換基による相対エネルギーへの影響は2番目のステップによって起こっている。カルベン類のF置換体(R=F)はR=Hに比べ活性化エネルギーが大きい。これはXH_2CH_3(モデル)のinversionエネルギーに起因すると考えられる。またR=Fの結果からR=Hの場合のCH2及びSiH2の疑似的な活性かエネルギーを類推すると-20kcal/mol、及び-30kcal/molとなり、これらの付加反応がダウンヒルの反応となることが理解できた。
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