研究概要 |
高度のエナンチオ選択性及び立体選択性を発現させるためには、優れた不斉源を立体的制約を受けやすい系で用い、しかも出来るだけ緩和な反応条件下で行うことが望ましい。立体的制約の大きい系として、分子内ene反応系を選び、反応条件を緩和にするために遷移金属触媒を用い、反応の立体化学的選択性について検討した。 分子内の適当な位置にオレフィン部を有するアリリック系にパラジウムを作用すると、π-アリルパラジウム錯体に対してオレフィン部が求核剤として作用し環化反応をおこす。硫黄原子上に不斉部を有するキラルallylic sulfinateを熱反応に付すと、allylic Sulfinate-sulfone転位をおこし、光学活性のallylic sulfoneを与える。これにパラジウム触媒を作用すると、より活性な部分が反応してπ-アリルパラジウム錯体を形成し、これにallylic sulfoneのオレフィン部が求核剤として反応してmetallo型ene反応をおこし、光学活性の環状化合物を与える。すなわち、このような一連の反応により、キラル硫黄原子上の不斉を2つの炭素原子上に不斉変換することができる。例えば、nerolから導かれた光学活性のSulfinate,8-acetoxy-3,7-dimethyl-2,6-octadienyl (S)-p-toluenesulfinateを熱反応に付すと、光学活性のsulfone,8-acetoxy-3,7-dimethyl-3-(p-toluenesulfonyl)-1,6-octadieneを生成する。このようにして得られた光学活性のallylic sulufoneは、AcOH中Pd(PPh_3)_4或いはPd(dba)_2で処理すると、分子内metallo型ene反応をおこし、光学活性の環状化合物(1R,3S)-および(1R,3R)-3-isopropenyl-1-methyl-2-methylene-1-(p-toluenes ulfonyl)cyclopentaneを99%という高いジアステレオ過剰率で生成する。しかし、この変換のエナンチオ特異性は50%と低下している。これは、環化の遷移状態においてキラル中心が一部ラセミ化するために、反応の立体特異性が低下したものと説明される。反応機構を考察し、生成物の立体化学を推定した。
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