研究概要 |
(1)シクロデキストリンによるビナフチル類の不斉認識機構 ビナフチル類として1,1′-ビナフチル-2,2′-ジイルハイドロゲンホスフェート(BNP)および1,1′-ビナフタレン-2,2′-ジカルボン酸(BNC)を用い、β-シクロデキストリン(β-CDx)および完全メチル化β-CDx(TMe-β-CDx)によるこれらビナフチル類の軸不斉認識機構につき検討した。不斉認識能の弱いβ-CDxの場合、いずれのエナンチオマーに対しても包接は負のエンタルピー変化(ΔH)および正のエントロピー変化(ΔS)を示した。一方、高い不斉認識能を有するTMe-β-CDxの場合にはより安定な錯体を形成するエナンチオマーについての熱力学的パラメータは負のΔH、正のΔSであったが、包接され難いエナンチオマーに対しては負のΔH、負のΔSを示した。さらに^1H NMRによる検討から、包接され易い(S)-BNPでは親水部をTMe-β-CDxの空洞に挿入した構造の錯体を形成しているのに対し、包接され難い(R)-BNPでは親水部を空洞外に置き、疏水部の一部を空洞内へ挿入した錯体が生成することが明らかにされた。このことは、分子力場-分子動力学計算から予測される構造にもほぼ一致した。以上の実験結果からかかる系の不斉認識機構の輪郭はぼ解明されたといえる。今後はホストーゲスト間の立体構造の関係と認識現象についての詳細を検討する必要がある。 (2)キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)による光学分割 我々はCZEがシクロデキストリン(CDx)による不斉認識の研究に極めて有効に利用できることを報告してきたが、今回はアルカロイドの立体異性体認識に対してCZEを適用した。アルカロイドとしてはシンコニン、シンコニジン、キニ-ネ、キニジンを用いた。その結果TMe-β-CDxを除く多くのCDxがこれらのアルカロイドの立体異性体を認識し、^1H NMRからその機構を推定することができることを見いだした。
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