研究概要 |
生命の存続に必須のステロイド類を鮮やかに作り出すスクワレンオキシドの環化反応を,フラスコの中で同じ様に実現したいという合成化学研究者の夢を背景に,様々な努力が続けられている.本研究者は先に優れたオレフィン環化反応剤である水銀トリフラート/アミン錯体を世に送りだした.そしてその特質を駆使して,様々な多環性テルペノイドの合成を行うと共に,スクワレンの環化反応に見られるボ-ト型B環を経由する環化反応を始めてフラスコ内で実現した.さらにこの試薬が水存在下に安定でかつ十分な反応性を保持しているという知見に基づき,環化反応中間体カチオンを水で捕捉する事に成功し,環化反応がフレキシブルなコンフォーメーションからなる,カチオン中間体を経由して段階的に進行する反応であることを始めて実験的証明するなどの研究を展開してきた.今回1)生合成類似オレフィン環化反応に際しての効果的なキラリティー制御法の開発,2)非常に高い抗発ガンプロモーター活性を有するクリプトポール酸の不斉全合成研究,3)生合成類似のルートによる抗腫瘍性ジテルペンのタキシン骨格の不斉合成研究を展開した.その結果,水銀トリフラートの新しい調整法を見出し,この試薬の汎用性を飛躍的に向上させ,オレフィン鎖上の特定の位置に酸素官能基を導入することで,環化反応の反応開始位置及びキラリティーを完全にコントロールできることを明らかにした.さらに,概念的に新しい還元的エーテル合成法を開発し,抗腫瘍性ジテルペンエーテルのクリプトポール酸全合成の為の必要な技術を全て確立した.また,タキシン骨格の合成研究は,オレフィン環化反応も条件を詳しく検討した結果,A環の構築を定量的に行う簡便な画期的手法を確立することが出来た.
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