研究概要 |
平成3年度では,電子プール的な機能をもつクラスター錯体の開発を目指し,Ru複核および三核錯体について,8-10電子を可逆的に出し入れできる錯体を合成することに成功した.本年度は,出し入れできる電子の数や出し入れできる電位を制御することを目指し,これを複核錯体内のオキソ架橋へのプロトン付加により実現出来た.以下に要点を述べる.用いた錯体は,[Ru_2(μ-O)(μ-CH_3COO)_2(2,2^1-bipyridine)_2(L)_2]^<2+>型(L=pyridine(py),2-methylimidazole(Meim),imidazole(im),benzimidazole(bzim))のRu(III,III)複核錯体である.アセトニトリル溶液中でサイクリックボルタモグラム(CV)を測定すると,いずれの錯体も(II,II)から(III,IV)までの状態を示すが,強酸の存在下では,還元電位が著しく正側にシフトする.これは,オキソ架橋へのプロトン付加により還元され易くなることを反映している.加えるプロトン供与体の強さを弱めることにより,(III,II)の状態ではプロトン付加が起こらず,(II,II)で付加するようにしたところ,(III,III)から(II,II)への還元が1段階2電子過程として観測された.すなわち,添加する酸の強さにより,還元電位,電子数が制御できた.また,一個のプロトンにより,二分子以上の複核錯体の2電子移動過程が誘起されることもわかり,ヒドロニウムイオンの橋かけ構造中間体の寄与が示唆された.im やbzim錯体は,分子内にプロトン源を含むが,このプロトンが還元に伴い分子内でオキソ架橋へ移動し,酸の添加なしでほぼ1段階2電子過程に近似できる挙動を示した.さらに,プロトンの代わりにより強力なLewis baseとして,BF_3を用いて酸化還元挙動に及ぼす影響を調べたところ,やはりオキソ架橋への付加に伴い,還元側の電位のみならず,酸化側の電位にも正へのシフトがみられ,BF_3が(III,III)の状態でもオキソ架橋へ付加することが明かとなった.
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