研究概要 |
高循環性が要求される触媒反応において、中心金属と配位子間あるいは錯体と基質間での円滑かつ合目的的な電子移動の制御がその効率増強の鍵となる。本研究者らは、複雑なレドックス系をもつルテニウムのなかでも、とくに高い水素分子活性化能力を有する2価ルテニウムに着目し反応の基底状態から遷移状態への移行にともなう構造変化に柔軟に対応できる「構造の動的しなやかさ」と「活性種の単一化」に効果的な2,2′-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1′-ビナフチル(BINAP)を配位子とするルテニウム(II)錯体を考案し、近傍に配位性ヘテロ原子を有する種々の不飽和化合物の水素化において高いエナンチオ選択性を示すことを明かにした。前年度に引き続きオレフィン基質としてエナミド類を取り上げ、平成6年度では、とくに特異な物性あるいは生理活性を有する有用物質の合成に焦点を置いた。具体的には2-アシル-1-アルキリデン-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン類を基質に用いてイソキノリンアルカロイドの一般不斉合成法を確立するとともに、モルヒネ人工誘導体として注目されるベンゾモルファンやモルヒナンの光学活性体の供給を実現した。また光学活性β-アミノ酸の合成も実現した。この不斉合成研究過程で集積された反応基質構造とエナンチオ選択性との相関性の基礎データをもとにエナミド基質のエナンチオ面選択の一般則を説明することもできた。本研究は当初の計画通りに進行しており、平成6年度の研究計画はすべて成功した。さらに次年度の研究計画に向けて、反応機構および高エナンチオ選択性発現の分子レベルでの解明に不可欠となる速度論実験装置や簡易H_2/HD/D_2分析装置の制作を行うとともにアイソトポマーの帰属法の確立にも成功している。
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