研究概要 |
研究者らは、酸化チタン(TiO_2)や硫化カドミウム(CdS)などの半導体粉末の光触媒反応により、天然に存在するアミノ酸の一種であるL-リシン(Lys)などのジアミノカルボン酸が脱アミノ環化して、効率よくピペコリン酸(PCA)に変換されることを報告してきた。このような半導体光触媒反応は有機合成のツールとして多くの利点をもっている。たとえば、(1)半導体粉末粒子の表面で、正孔による酸化と励起電子による還元が同時に起こる、すなわちひとつひとつの粒子が微小な光電気化学セルとして機能する。しかし、(2)電解反応系のように支持電解質を必要としない。また、(3)光触媒は反応後に分離することが容易で、再使用が可能である、などの特長があげられる。本研究では、Lysの光触媒反応の応用として、カルボキシル基がひとつ多い2,6-ジアミノピメリン酸の光触媒N-環化反応によるtrans-ピペリジン-2,6-ジカルボン酸(trans-PDC)の合成について検討した。触媒として、種々の条件下で前処理した市販CdSを用い、前処理によって触媒表面、すなわち電子移動場を制御して、生成物を立体選択的に得ることを目的とした。その結果、少量の空気を混入させながら、アルゴン気流下、1023Kで熱処理することによりきわめて高活性で、かつ、trans-PDCの選択性が高い触媒が得られた。種々の熱処理条件で触媒を調製し、その物性と光触媒活性を比較検討したところ、表面のイオウ原子が脱離したものが好成績であることが明らかになった。
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