研究概要 |
分子内反応によって炭素-炭素結合形成と官能基導入を同時に達成することは有機合成化学における高効率的な方法論を提供するものである。この様な観点に立ち、我々はジイン類の新規分子内還元的環化反応の開発を行った。ジイン類の還元的環化反応は、エキソ/エキソ環化、エキソ/エンド環化およびエンド/エンド環化の三つの反応様式が可能である。これらの選択性を支配する因子として、金属錯体、置換基、環員数の効果の三つが挙げられよう。今回、この三因子について種々の検討を行った結果、選択的にエンド/エンド様式で反応が進行する初めての系を見いだした。すなわち、金属錯体として、1電子移動系であるリチウム試薬を、置換基としてフェニル基とシリル基をアセチレン両末端に有する基質を、そして環員数として二つのアセチレン部位を一つのケイ素原子でつないだ基質を、それぞれの因子として選んで反応を行った。すなわち、ジ(フェニルエチニル)ジアルキルシランを4当量のリチウムナフタレニドと反応させた場合、選択的にエンド/エンド様式で分子内還元的環化反応が進行し、2,5-ジリチオシロールが生成した。本反応を高選択的かつ高収率なものにしている鍵は次の二点にある。すなわち、(1)過剰量の還元剤の使用によって二つのアセチレン部位を同時に一電子還元すること、および(2)生成するビス(アニオンラジカル)種のフェニル基による安定化の二点である。 得られたジリチオシロールを種々の求電子剤で捕捉し、ハロゲン、ケイ素、スズ等の官能基をシロールの2,5位に導入した。さらに、得られた二官能性シロールを用いた新しいパイ電子系化合物、オリゴシロールの合成についても検討を行った。銅錯体を用いた酸化的カップリングにより二量体および四量体を得た。これらのオリゴシロールは、シロールが2,5位で一次元につながった高分子、ポリシロールのモデル系として興味深い。
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