研究概要 |
架橋配位子としてN,S配位する2-pyridinethiol(Hpyt)の異核複核錯体[Pt(pyt)_4VO]を合成し,その酸化還元挙動を電気化学測定により検討し,酸化還元反応に伴う白金-バナジウム間の相互作用について考察した。[Pt(pyt)_4VO]錯体は、非プロトン性有機溶媒中で,-1.5V vs.Ag/Ag^+に可逆な1電子還元過程を示す。1電子還元生成種[Pt(pyt)_4VO]は、複核構造を保持したまましかもV=O結合の切断を伴わず安定に存在することが認められた。そこで還元生成種の紫外可視吸収スペクトルを,光透過性薄層電極でのin-situ分光電気化学法により測定した。[Pt(pyt)_4VO]錯体では,可視部領域にはd-d遷移に帰属される弱い吸収帯しか見られず,Pt-VO間には相互作用はないとみられる。事実[Pt(pyt)_4VO]錯体のESRスペクトルは単核V^<IV>(d^1)に見られる特徴的な吸収を示した。一方1電子還元錯体[Pt(pyt)_4VO]は深い青色を示し,730nmに強い(ε=8000M^<-1>cm^<-1>)を与える。この吸収帯はPt-VO間の相互作用が関与した電荷移動吸収帯と考えられるが,還元中心がPtであるかVであるかは現在検討中である。V^<IV>Oの単核錯体の電極反応の多くは,後続反応を伴う非可逆的な1あるいは2電子還元示すが,この[Pt(pyt)_4VO]錯体が可逆な1電子過程を示すことは,前述の電荷移動吸収帯の出現から考えると,還元に伴うPt-VO間の相互作用が安定化に大きく寄与していると考えられた。一方,[Pt(pyt)_4VO]錯体の電極酸化反応は速い後続化学反応を伴う1電子のsquareECEC機構で進行していることが明らかとなった。多くの単核V^<IV>O錯体は,還元反応とは異なり,可逆なV^<IV>からV^Vへの酸化が生じると報告されているが,この複核錯体では非可逆な挙動を示していることより,酸化反応はPt^<II>からPt^<III>に相当していると考えられ。
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