研究概要 |
テトラシラシクロオクタジイン3は環状σ-π相互作用のために特異な電子的性質を示す。本研究ではこの種の相互作用および反応性に対する元素効果を、ケイ素原子をゲルマニウム原子に置換した新規なゲルマニウム類縁体3,3,4,4,7,7,8,8-オクタメチル-3,4,7,8,-テトラゲルマ-1,5,-ジイン(1)および3,3,4,4,7,7,8,8-オクタメチル-3,4,-ジシラ-7,8-ジゲルマ-1,5-ジイン(2)を合成して検討した。 1、2および3はたがいに極めて類似した光電子スペクトル(PE)を示し、1および2でも3と同型のアセチレンπ軌道と金属-金属σ軌道間の環状σ-π相互作用が有効である。1および3のイオン化ポテンシャル(IP)を考慮すると、第四周期元素であるゲルマニウム-ゲルマニウム(Ge-Ge)σ軌道と炭素-炭素(C-C)π軌道との相互作用が第三周期元素であるケイ素-ケイ素(Si-Si)σ軌道とC-Cπ軌道間の相互作用と同程度有効であることがわかる。しかし、UVスペクトルではSi-Si結合をGe-Ge結合に置換するとその吸収極大波長は短波長にシフトする。このことはゲルマニウム類縁体1および2では対応するケイ素化合物3に比べてLUMOが上昇していることを示唆する。 1、2および3は塩化メチレン中テトラシアノエチレン(TCNE)とCT錯体を形成してCT吸収を示す。1は塩化メチレン中TCNE存在下でオリゴメル化し、1.5量体および二量体を与える。一方、より極性なアセトニトリル中ではポリメリ化して、対応するポリマーを与える。この極性溶媒では2も対応するポリマーに定量的に変換されるが、Si-Si結合のみでGe-Ge結合を持たない3はCT錯体は形成するがポリメリ化はしない。
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