研究概要 |
シンクロトロン放射光を光源として、アセチレン分子を50〜90nmの光で分解するとCHおよびC_2ラジカルからの蛍光を観測することが出来た。これらのラジカルの蛍光断面積を水素同位体化合物、すなわちC_2H_2,C_2HD,C_2D_2、を用いて測定したところ、C^*_2ラジカルの蛍光断面積はC_2H_2>C_2HD>C_2D_2の順であり、CH^*(CD^*)においては逆にC_2H_2<C_2HD<C_2D_2であった。 本研究において用いた光エネルギーはアセチレンのイオン化ポテンシャルを越えている。そこで、蛍光励起スペクトルとイオン生成効率スペクトルを測定した。これらのスペクトルの解析結果により、C^*_2およびCH^*(CD^*)の前駆体の一つはC_2H_2^+イオンのA^^<〜2>A_g状態に収斂するリュードベリ状態であることが判明した。また、二つのスペクトルは、リュードベリ状態(一般には超励起状態という)がトランス型に曲がっていることを示唆した。このことはリュードベリ状態(超励起状態)が三員環活性錯合体を経て分子内水素原子転移を起こし得ることを意味する。この分子内水素転移の際にトンネル効果が効き、そのゆえ、CH^*(CD^*)の蛍光断面積はC_2H_2<C_2HD<C_2D_2の順に大きくなるという観測結果が合理的に解釈された。C^*_2ラジカルについては、C-HおよびC-D結合における通常の水素原子同位体効果が働いていると考えられる。 上記の結果により、今日までほとんど理解が進んでいなかった超励起アセチレン分子は如何なる過程を経てラジカルに分解していくのかという課題に対して、化学反応動力学的な解明が出来た。
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