本研究計画は、銀河団に付随する高温ガスから放射されるX線と観測されているX線背景輻射のスペクトルを比べる事により、その高温ガスの起源および進化を探る事を目的とした。具体的には銀河団に対応するダ-クハロ-の重力的な形成率をあたえる公式を導き、それをもとにして球対称モデルを仮定して個々の銀河団から熱制動輻射によって放出されるX線のスペクトルを時間の関数として計算し、それらの重ね合わせとしてX線背景輻射のスペクトルに対する銀河団の寄与を与えることに成功した。その結果、COBE衛星の観測した宇宙マイクロ波背景輻射の温度揺らぎの振幅で規格化された冷たい暗黒物質モデルでは、宇宙の質量密度が臨界密度に近い場合、銀河団からの寄与だけで観測されているX線背景輻射の値を一桁程度上回るX線が放射される事が示された。このため、X線背景輻射が宇宙モデルに対して厳しい制限を与え得る観測である事が明らかとなった。興味深い事に、宇宙の大構造形成、さらには宇宙年齢の観点から望ましいと考えられている低密度の冷たい暗黒物質モデルに対してはこのような矛盾は存在しない。また、この研究を通じて導かれたハロ-の形成率についての公式は、いわゆるPress-Schechter理論を拡張したものであり、銀河の光度関数の予言、宇宙初期の活動銀河核の形成率等、他の多くの宇宙物理的研究テーマに解析的な研究手法を持ち込むことを可能にしたものであり、今後の研究の発展が大いに期待できる。この部分は、大学院生の北山哲氏と須藤との共同研究に基づいており、現在、論文を投稿中である。一方、銀河形成にともなう熱放出が銀河団の熱的進化に及ぼす影響について、数値シミュレーションを用いて考案した。その結果、銀河団のX線光度を低くする効果があること、また赤方偏移が高くなるほどその効果は大きくなることがわかった。この部分は、杉之原の研究による成果である。
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