研究概要 |
活動銀河核(AGN)はクェーサーに代表されるように、宇宙の中で最も大きなエネルギーを発生する天体現象であるが、その中心エンジンの実態は現在も謎につつまれている。AGNのモデルとしては,超大質量のブラックホールのまわりに降着円盤が存在するとするモデルが広く受け入れられているが、これはおおまかな枠組だけで、詳細な点についてはまだよく分かっていない。本研究代表者は大学院生の中村と共同して,AGNの降着円盤モデルとしてディスクとコロナからなるモデルを提唱した。このモデルの特徴はディスクは比較的低温で観測されている紫外線を放射し、高温のコロナではその紫外線を逆コンプトン散乱して、X線にまでたたき上げる。このX線がAGNで観測されるX線を説明するというモデルである。 このモデルでは,コロナでの逆コンプトン散乱でX線にたたき上げられた光子のうち、ディスクに向かうものは,ディスクにおいて鉄のK殻電子を光電離し、鉄の蛍光X線が放射される。この鉄の蛍光X線をモンテカルロ・シミュレーションによって計算した。ディスクに向かって放射された光子に関してはディスクで吸収されるか散乱されるかを計算し、鉄によって吸収された光子についてはfluorescence yieldを0.34として6.4keVの螢光X線が放射されると仮定して,鉄のラインX線の等価幅を計算した。このようにして得られた鉄のKα輝線の等価幅は全立体角で平均すると100eV程度という結果を得た。インクリネーションが小さければ(ほぼ真上から観測すれば)、この等価幅は大きくなる。観測されている鉄輝線の等価幅として非常に大きい値を示す天体もあり、そのような大きい値を説明することは,このモデルでは今のところ困難である。
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