昨年度は、変形核の基底状態での慣性能率を系統的に調べることによって多くの原子核にわたって全体的な遇奇質量差と慣性能率の振る舞いを同時に再現するには、岸本・坂本によって示唆されたdouble-stretchedの四重極型の分離型状態依存対相互作用が良いことを明らかにしたが、本年度はこの相互作用を有限の角速度を持つ高スピン状態へ適用し色々な分析を行った。 まず最初に、以前に開発した透熱基底の方法を改良して用いることにより、2中性子回転整列によって起こるバンド交差の効果を分離し、四重極対相互作用の回転運動に及ぼす影響を詳細に調べた。特に、回転系での準粒子図を調べることにより、四重極対相互作用は主として集団的回転状態の振る舞いに効果があり、準粒子運動にはあまり大きな影響を及ぼさないことがわかった。このことは、単極対相互作用のみを用いた場合でもバックベンディングの起こる角速度が正しく再現でき、かつ、その状態依存性や核子数依存性も理解できるという以前から知られていたことをうまく説明する。従って、基準とする回転バンドとの相対的量を問題にする限り、偶々核の2準粒子状態だけでなく、奇核の1準粒子状態や3準粒子状態でもこれまでの単極対相互作用のみを用いた計算は幾つかの例外を除いて良い近似であることがわかった。また、バンド間の相互作用を精度良く評価することが可能になり、典型的な回転核の幾つかに対して応用を試み実験データとの良い一致が得られた。 最近、スウェーデンのグループによって、Hg-領域の慣性能率の角速度依存性に対し、四重極対相互作用の効果が重要であるとの結果が出されたが、この時やはり、岸本・坂本によって示唆されたdouble-stretchedの四重極型の分離型状態依存対相互作用を用いなければならないという我々と同様の結果が得られている。
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