研究概要 |
タンパク質内部高秩序環境場におけるピリドキサール5'-リン酸(PLP)の光反応ダイナミックス解明のために 本年度はモデル化合物,PLPプロピルアミンシッフ塩基(PLP-PrNH_2)の光反応ダイナミックスを解析した。PLP-PrNH_2は,水中では主としてケトエナミン型(λ_<max>=400nm),99%ジオキサン水溶液中ではほとんどエノールイミン型(λ_<max>=330nm)で存在する。99%ジオキサン水溶液中でのPLP-PrNH_2(エノールイミン型)をナノ秒レーザー光(347.2nm)で励起すると,過度吸収スペクトル(λ_<max>=455nm)が観測される。この過度吸収の減衰寿命は約660nsである。PLP-t-ブチルアミンシッフ塩基(エノールイミン型)の励起でも同じ過度吸収スペクトルが観測されることから,エノールイミン型の光励起によって生成する過度種はアミンのα-プロトンの脱離によるρ-キノイドではなく,ο-ヒドロキシプロトンの移動によるο-キノイドであると考えられる。 PLP-PrNH_2のエノールイミン型およびケトエナミン型のいずれを励起しても約540nmに極大を持つ蛍光スペクトルが得られる。励起スペクトルの極大波長はエノールイミン型では約335nmと約410nm,ケトエナミン型では約410nmである。蛍光減衰は,エノールイミン型では寿命約30ps,6nsと約600nsの3成分であるのに対し,ケトエナミン型は寿命約8nsを持つ1成分である。 以上の結果より,PLPの光反応ダイナミックスは次のように推定される。 すなわち,(1)蛍光状態はケトエナミン型の励起状態K^*である。 (2)エノールイミン型の励起状態は,寿命約30psの励起状態E^*,さらに455nmに吸収極大を持つ過度種X_<455>を経てK^+を与える。 (3)99%ジオキサン水溶液中には,エノールイミン型とケトエナミン型(少量)が混在している. X_<455>の寿命はK^*の寿命より十分長いので,過度吸収寿命(660ns)と蛍光寿命の1番長いもの(約600ns)がほぼ一致するのは合理的であり,上記の機構が正しいと考えられる。
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