研究概要 |
ベンジルトリメチルシランを液体窒素温度において、3-メチルペンタン,エタノール,sec-塩化ブチル剛性溶媒中で光分解したところ、それぞれの反応において大きく異なる光化学反応中間体が生成することを見い出した。すなわち、3-メチルペンタン中ではトリメチルシリルベンジルラジカルが,エタノール中ではベンジルラジカルが,またsec-塩化ブチル中では親分子のカチオンラジカルが主として生成した。三重項消光剤を用いて光化学反応を研究したところ、トリメチルシリルベンジルラジカルとカチオンラジカルは最低三重項状態を経由して反応していることがわかった。この顕著な溶媒効果を解明するため、MNDO-PM3法による分子軌道法計算を行って一重項第一励起状態の構造を解析したところ、この状態ではC(benzyl carbon)原子とSi原子の距離が2.44Åと異常に長くなり、結合次数も0.14と低下していることが指示された。これにより、この状態は溶媒の影響を受けやすい構造をしていることが明らかになった。さらにベンジルシランのフェニル誘導体であるトリメトキシシリルジフェニルメタンを同様に低温で光分解したところトリメトキシシリルジフェニルメチルラジカルとジフェニルメチルラジカルが各々エタノール中と3-メチルペンタン中で主な中間体として生成することを明らかにした。以上の結果から、ベンジルシランの反応環境場を変えることにより種々の反応生成物を与える光化学反応を起こさせることができることがわかった。 次にベンジルシラン類と関連したジヒドロシラアントラセンの低温における光化学反応を研究したところ、エタノール中ではジフェニルメチル型ラジカルが,また3-メチルペンタン中ではこれに加えてシラアントラセンが生成することを見い出した。この結果は英国化学会の速報誌に発表した。
|