過渡回折格子法は分子運動を解明するための非常に有力な検出法である。しかしこの手法を応用した従来の液晶系での研究には、理論的に説明できない、いくつかの疑問点が有ることがわかった。こうした点に関して研究を重ねた結果、液晶系で過渡回折格子信号の現れる過程に、これまで見落とされていた機構が存在することが明らかとなった。すなわち光励起された分子とされていない分子の光学的性質の差によって過渡回折格子信号が現れているのではなく、ディレクターという液晶特有の光学的性質の空間的変調によって信号が現れていることが結論された。この解釈に基づき、信号の時間変化を解析した結果、液晶特有の分子運動の温度依存性が明らかとなった。また液晶分子と界面との相互作用の問題は、多くの分野から注目されている大切な問題であるが、従来の手法ではミクロなダイナミックスの観点からのアプローチは不可能であった。この問題に対して、界面付近の分子だけを選択的に検出する過渡回折格子法を応用し、初めてこうした問題に対してのデータを与えた。その結果、膜界面での分子運動は相互作用によって押さえられるであろうという直感的予想に反して、相互作用によって分子運動が促進されるという奇妙な事実を見出した。現在、この結果を理論的に解釈できてはいないが、もしこの事実が普遍的ならば多くの分野に影響を与える重要な意味を含んでいるものと思われる。
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