研究概要 |
本研究では、緑の香り生成の酵素-基質複合体形成機構を明らかにするために、(1)リポキシゲナーゼ(LOX)、ヒドロペルオキシドリアーゼ(HPO lyase)の精製、及び物理化学的測定に使用しうる量の供給系の確立、(2)理論的にデザインされた合成基質類緑体を用いた反応速度論的解析、(3)NMRを用いた酵素-基質複合体の動的構造解析、を行い、次のような成果を得た。 (1)ダイズ種子LOXはその3種類のアイソザイム全てを100mgオーダーで調製する系を確立した。一方、ダイズ種子LOXとは酵素的性質の異なるキュウリ子葉LOXは、そのcDNAを得ることに成功し、これを用いて大腸菌での発現系を確立した。一方、HPO lyaseは植物組織に極わずかしか含まれず、また、膜蛋白質であるために精製さえも困難であったが、ピ-マン果実を酵素源に選びHPO lyaseを精製できる系を確立した。本精製酵素を用いて、α-リノレン酸より調製した種々のヒドロペルオキシドに対する反応性を検討した結果、HPO lyaseは、基質の1-hydroperoxy-2E,4z構造を極めて厳密に認識しており、その幾何異性体、或いはhydroperoxy基に関する位置異性体を殆ど基質としないことを明らかにした。また、本酵素がprotoheme IXを補酵索とするヘム酵素であることを初めて明らかにした。 (2)これまでの研究をもとに、1Z,4Z-pentadiene系以外への二重結合の導入のLOX基質認識に対する影響をより精密に解析するため、新たな合成基質類緑体、(6E,9Z,12Z)-octadecatrienoic acidを、立体特異的に合成した。 (3)NMR測定に適した競争阻害剤のスクリーニングを行い、生成物類緑体である13-hydroxy-(9Z,11E,15Z)-octadecatrienoic acidが効果的な競争阻害剤であることを見いだした。一方で、LOXより非ヘム鉄をLOXの高次構造を殆ど変化させることなく除去することに成功した。
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