研究概要 |
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に対する特効薬の開発が待たれているが、突然変異が容易に起こるために困難になっている。最近、HIVの逆転写酵素に対する特異的阻害剤として、非ヌクレオシド系阻害剤が注目されている。その一つとして、ヘテロ芳香族化合物Nevirapineがあり、阻害活性、Nevirapineによる特異的アミノ酸変更などが明らかにされている。このNevirapineおよびその類縁体がHIV逆転写酵素に特異的に結合すると誘起円二色性を生ずる。Nevirapine自身は光学不活性であるが、非平面の立体配座をとり、逆転写酵素に結合したときに一方の絶対立体配座をとり誘起円二色性を生ずるためである。本研究では、酵素と阻害剤との超分子形成における誘起円二色性から、結合中心での構造解明のために次の研究を行った。 1.N-methylnevirapineのキラルHPLCによる光学分割と円二色性 Nevirapine自身は光学分割できないが、N-methyl体は立体障害のために、キラルHカラムを用いて、低温で光学分割できることを見出した(Chiralpak AS,hexane/isopropanol,-10℃)。エナンチオマーの分割には、溶解度と分離能の細い条件がある。低温で分離した光学異性体の-30℃でのCDスペクトルを測定することができた。 2.Nevirapineの酵素結合時の絶対立体化学の理論的決定 上記のN-methyl体のCDおよびNevirapineの酵素結合時の誘起CDをもとに、その絶対立体化学を決定した。すなわち、MOPAC計算により、安定配座を計算して、原子座標を求めたのち、ねじれたπ電子系に対するπ電子SCF-CI-DV分子軌道法を用いて、CDを計算した。その結果は、実測の基本的な形を良く再現でき、超分子形成時の立体化学を明らかにすることができた。
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