研究概要 |
希土類元素は,物質中でのふるまいは,硬い球状イオンとみなされる。一方,電子分光法などの解析手段,あるいは,理論計算によって調べると,共有結合性の4fおよび5d軌道が価電子帯にかなり存在していることが,報告されており,共有結合性の強さがよくわからない状況であった。酸化セリウムを中心に,希土類元素の化学結合の特徴と4f電子およびその他の価電子の寄与を,明らかにした。 1.希土類化合物のイオン結合性と共有結合性 実験値を組みこむ必要のない第一原理計算法である相対論DV-Xα法を用いた。これは,希土類のような重原子であっても,特別な困難を伴わずに計算できた。 それぞれ,共有結合性とイオン結合性の強い化合物である,酸化ジルコニウム(立方晶)とフッ化カルシウムとの比較を行い,酸化セリウム(CeO_2)の特徴を明らかにした。価電子帯の電子の電荷密度分布を調べると,酸化セリウムでは,酸化ジルコニウムより強いといえる共有結合を持っていたが,これを上回って,イオンの性質が結合を支配していることが分かった。さらに,軌道成分を解析し,結合に関与している軌道を明らかにした。共有結合を担う4f,5d軌道と,イオン性をもつらす6s,6p気道が,エネルギーおよび空間的拡がりの点で似かよっていて,協調または競争して,結合に寄与していた。イオン結合性と共有結合性の2つの相反する結合を同時に持つことが,酸化セリウムそしてランタニド化合物の結合の特徴であることを示した。 2.希土類化合物における相対論効果の働き 希土類元素では,電子が高速で運動するため,相対論の効果が現れる。その効果が,どの部分にどのように現れるかを明らかにした。相対論効果によって,5d,6s,6p軌道は,若干変化するのに対して,4fの準位は,大きく高エネルギー側にシフトしていた。ランタニドの一連の原子で,相対論効果による価電子軌道の変化を明らかにした。
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