研究概要 |
研究代表者は軌道間の規格直交条件を満足する最小二乗法を開発し、X線回折実験から原子軌道(AO)を求める方法(X線原子軌道・分子軌道解析法)を提案した。前年度に、この方法を対称心のみを有する低対称場中の遷移金属錯体に適用し、Cu(diazaoctane)_2(NO_3)_2中のCu^<2+>3d軌道を求めることに成功し、X線原子軌道解析法は一般的に行うことができるようになった。本重点領域研究では、X線原子軌道解析法の適用対象を希土類元素等を含む結晶広げるための研究を行った。その結果、従来注目されていなかった多重反射効果が、重原子結晶の精密解析においては無視できないことが明らかになった。そこで多重反射を避ける、4軸回折計による強度測定法を確立した。この方法を使用して、PtP_2及びNiP_2のX線原子軌道解析を行い、各5d,3d軌道関数を決定した(発表予定)。しかし、PtP_2では、残渣密度図のPt原子上に大きな谷が存在する。これは使用した内殻電子の原子軌道関数に相対論効果がとりこまれていないことによると考えられるので、相対論効果を考慮した原子軌道関数に基づく解析を更に行う予定である。また、希土類元素結晶のX線原子軌道解析の最初の系として、立方晶CeB_6を選んだ。前記の多重反射を避ける強度測定法を使用して、室温で精密強度測定を行った後、X線原子軌道解析を行ったところ、4f電子と思われる山を変形密度図上に見つけた。4f電子による変形密度図上の山や谷は、原子核の近傍に位置するので、非調和熱振動による山と区別するのがむつかしいといわれている。事実、X線原子軌道解析を行っても、非調和熱振動解析を行っても、この山は有意な影響を受ける。そこで両者を実験的に区別するため現在、100K,165K,230K298Kで、X線精密強度測定を行っている。その結果、4f電子の山をX線回折法で見ることができることを世界で初めて、明示できるのではないかと考えている。
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