研究概要 |
ランタノイド系列の各錯体の安定度を支配する因子を調べることを目的として,クロロホルム中で,ランタノイド(III)キレートの芳香族系カルボン酸とピリジン系配位子による付加錯体の安定度定数を,溶媒抽出のデータに基づき算出し,カルボン酸およびピリジン系錯体の安定性のランタノイド系列全体に亘る変化の一般則を見いだした。 あるランタノイド(III)キレートの安息香酸による付加錯体はフェニル酢酸やジフェニル酢酸による,より安定である。ナフトエ酸とナフチル酢酸による付加錯体でも,前者は後者より安定である。これはカルボキシル基が芳香族環な直接結合した酸では,芳香族環による誘起効果のほかに共鳴の効果が加わり,配位原子である酵素原子の電子供与性がメチレン基でカルボンキシル基と芳香族環が離された酸より高くなるためである。 また,今回用いた,いづれのカルボン酸による付加錯体の生成定数も,軽希土でも重希土でも原子番号の増加と共に減少するが,中希土ではその減少の程度が緩やかになる。これは軽希土と重希土で配位数が変わることに対応している。おそらく,抽出されたランタノイド(III)にはまだ,水分子が配位しており,カルボン酸はその水分子との競争反応して,配位するので,水分子が強く配位していても,配位子とも強く結合できる重希土の方が錯体を生成するのに有利なためである。 軽希土から重希土までの錯体の安定度の大きさの変化はベンゼン系よりナフタレン系の方が小さい。これは,ナフタレン環のπ電子系による共鳴の効果がベンゼン環より大きいので,配位原子の塩基性が安息香酸等より高く,重希土の水和分子に十分克つことができるために,重希土の錯体の安定度が増すという仮説を提案した。 ピリジン系配位子による付加錯体の安定度はカルボン酸と異なり,軽希土から中希土にかけて増加の傾向が観察される。これも水和分子と配位子のルイス塩基としての力のちがいで説明した。
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