研究概要 |
新規な骨格構造を有する電子供与体および電子受容体を分子設計し、合成し、これらを成分分子とする新しいタイプの分子性導体を開発し、伝導挙動や伝導効果を解明する目的で本研究を行い以下の研究実績を挙げた。 1.無水チオコハク酸に対して2分子の1,3-ジチオール-2-チオン誘導体を段階的に反応させて得られる生成物をDDQやクロラニルで脱水素したり、脱エステルしたりして、1-6の新規拡張共役型電子供与体を合成することに成功した。 2.1〜6はいずれも安定なラジカルカチオンとジカチオンを与えた。1は強い電子供与体で空気中、やや不安定であったが、2〜6は安定で、TCNQ錯体はいずれも高伝導性であった。中でも[4][TCNQ]錯体の電導度は加圧成形試料かかわらずσ_<RT>=16 Scm^<-1>であり、室温から248Kまでの温度領域で金属的挙動を示した。また、248から82Kまでの領域では半導体であったが、活性化エネルギー(Ea=0.023eV)は非常に小さかった。 3.2,3-ビス(4-ヒドロキシフェニール)シクロプロペノンにチエニルおよびセレニエニルマロノニトリルを作用させて得られる[1.5.3]キナレン誘導体を酸化して、それぞれ7および8を合成した。 4.7と8のTTFおよびTTT錯体は高電導性であった。[8][TTF]および[8][TTT]錯体はそれぞれ単結晶状態でσ_<RT>=420 Scm^<-1>および450 Scm^<-1>の電導度を示し、それぞれ室温から182Kおよび80Kまでの温度領域で金属的挙動を示した。[7][TTF]と[7][TTT]錯体も単結晶状態では金属的性質を示すと予想された。7と8のラジカルアニオン塩も比較的高電導性であった。これらのCT錯体はTCNQやDCNQIに属さない電子受容体で構成される分子性金属の最初の例である。
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